シャープは5月12日、決算と2025~2027年を対象とした中期経営方針説明会を実施した。堺ディスプレイプロダクト(SDP)のパネル生産を停止するほか、亀山第2工場を鴻海(ホンハイ)精密工業に譲渡するなどの構造改革を進める。
2024年度(2024年4月~2025年3月)の連結業績は、売上高が前年比7%減の2兆1601億円、営業利益が前年203億円の赤字から273億円の黒字、経常利益が同70億円の赤字から176億円の黒字、最終利益は同1499億円の赤字から360億円の黒字となった。売上高は前年を下回ったものの、営業、経常、最終利益はいずれも黒字化し、売上高、各利益は2月の公表値を上回る結果となった。

2024年度 連結業績概要
シャープ 代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者(CEO)の沖津雅浩氏は「2024年度の重点取り組みであるアセットライト化(資産を軽くすること)や2025年度以降に向けた基盤の構築についても確実に進展している」と手応えを話した。
2024年度は、堺ディスプレイプロダクトにおけるパネルの生産停止、カメラモジュール、半導体を鴻海の子会社に売却するなどの構造改革を実施。同日に発表した亀山第2工場の売却は2026年8月までに実施する計画で、譲渡後の小型ディスプレーについては、鴻海からパネルを調達し販売する形へと切り替える。
沖津氏は「デバイス事業の構造改革により、ブランド事業に集中した事業構造の確立が着実に進展した1年になった。ブランド事業においても低収益事業の構造改革を実行するとともに、成長への布石を打っており、再成長に向けた基盤の構築が進んでいる」と1年を振り返った。
2027年度までの中期経営計画については、「まずは創業の精神」(沖津氏)とし、「目の付けどころがシャープ」「誠意と創意」という2つの言葉を掲げた。「シャープはかつて『目の付けどこがシャープでしょう』という言葉どおり、他社とは一味違ったシャープらしい商品を次々と生み出してきた。もちろん、成功したものばかりではないが、この違いを生み出す力こそがシャープらしさであり、競争力の源泉であると考えている。しかし、これまでの景気やマネジメントの変化などを背景に、近年、このシャープらしさは徐々に失われつつあると感じている。この危機感から、2024年6月に社長に就任した際、再びシャープらしさを取り戻すことを私の使命として掲げた」とする。

全社員が創業の精神「経営理念・経営信条」にこだわり、シャープらしさを取り戻す
一方、誠意と創意は、シャープの創業者である早川徳次氏が掲げた経営信条。創業の精神をより深く社内に浸透させ、シャープらしさの復活に挑む。
戦略としては、ブランド事業のグローバル拡大と事業変革を加速させるため、「スマートライフ ビジネスグループ」と「スマートワークプレイス ビジネスグループ」の2つに再編。これまでの2倍以上の成長資金を投下することで、既存事業の競争力強化とともに、成長領域への事業変革を加速させる。
また、持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築として「コア技術」の開発も加速させる。ここでは、過去に数々の特徴商品を生み出したシャープ独自の取り組みである「緊急プロジェクト(緊プロ)」をベースにした全社横断プロジェクト「I-Pro」を推進。現在でも電気自動車(EV)やAIに関連する3つのプロジェクトが進行しており、今後も自由度の高いリソースのかけ合わせで特徴技術や新技術の立ち上げを加速する方針だ。
中でも重点強化に位置付けているのが、独自のAI技術である「CE-LLM」だ。エッジとクラウドのAIを組み合わせたことが特徴で、迅速な応答性と強固な安全性に強みを持つ。沖津氏は「エッジとクラウドの強みを生かしつつ、ユーザーの環境に合わせた最適なソリューションを提案していく」と期待を寄せる。

コア技術の開発加速「CE-LLM」
このほか「成長の原動力である社員一人一人の力を最大限に引き出せる人への投資も拡大する」として、AIデジタル人材などの育成、獲得にも力を入れていくとのこと。併せて、人材が活躍できる環境の構築にも取り組むとして、2026年3月をめどに本社を大阪市中央区に移転する計画も明らかにした。
これらの取り組みにより、2027年度には、ブランド事業の営業利益率を7%以上、ディスプレイデバイス事業の黒字化、全社の営業利益800億円を目指す。
また、新産業領域への挑戦として、EV、AIデータセンターソリューション、インダストリーDX・ロボティクス、宇宙の4領域を挙げた。「大きな成長が期待される新産業領域でのネクストイノベーションの具現化にも着手していく。自社のさまざまな特徴技術を核に、鴻海のリソースも有効に活用しながら、新たな取り組みを展開していく」(沖津氏)とした。

2025年度通期業績予想

シャープ 代表取締役 社長執行役員 最高経営責任者(CEO)の沖津雅浩氏(中央)、専務執行役員 最高財務責任者(CFO)小坂祥夫氏(左)IR部長の中道克明氏