ゼブラ・ テクノロジーズは、「倉庫業界の展望に関するグローバル調査」の結果を発表した。倉庫業界経営層の63%が5年以内にAIソフトウェアと拡張現実(AR)の導入を計画しているという。5月14日、ゼブラ・ テクノロジーズ・ジャパンが詳細を説明した。
ゼブラ・ テクノロジーズは、業務用のモバイルコンピューターやバーコードリーダーを取り扱い、倉庫や製造業といった現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する企業。世界に114の拠点を持ち、売上高は約7500億円になる。
ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン 営業部長の吉川浩二氏は「現場をDXすることでお客さまのビジネス優位性を確保するお手伝いをしている会社。売上高に対し、研究開発比率が11%と高く、日本の製造業でも多いところで5~6%なので、10%以上を継続して投じている企業はそれほど多くない」と特徴を話した。

ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン 営業部長の吉川浩二氏
倉庫業界の展望に関する調査は毎年行っているもの。2025年は、製造、小売、輸送、物流、卸売販売の従業員と経営陣1700人以上を対象に、北米、欧州、中南米、アジア太平洋(APAC:オーストラリア、ニュージーランド、中国、インド、日本)地域で実施した。調査期間は2024年6~7月。
調査によると、世界の倉庫業界経営層の63%が5年以内にAIソフトウェア(APACでは63%)、およびAR(同65%)の導入を計画しているとのこと。さらに世界の64%(同63%)が今後5年間で倉庫のモダナイゼーションへの投資増額を計画。2029年までにモダナイゼーションのスケジュールを加速させる予定であるとの回答は世界63%、APAC64%でほぼ同じ水準となった。
吉川氏は「倉庫をモダナイゼーションしていくために必要なのはデータの精度。業務の非効率な部分をピンポイントで修正したり、ワークフローの中で改善点を指摘したりといったことに自信を持って対応していくにはデータの精度が非常に重要になってくる」と重要性を説く。
倉庫関連業務は昨今、ユーザーからの需要変化が激しく、中でもECを中心とした変化は急激だ。吉川氏は「この需要変化に応えるためにはモダナイゼーションをするしかなく、『業務のモダナイゼーションが最優先事項であり、その実行を迫られている』と回答した経営陣は70%に上る。加えて、84%が『業務の可視化の向上により意思決定を自動化できる』とし、新しいテクノロジーの導入は不可欠だと回答している」とした。
「効率を低下させる生産性の課題」では、在庫の不正確さや品切れが挙げられ、スタッフの80%、経営陣の75%が「より優れた在庫管理ツールが必要である」と回答。吉川氏は「モダナイゼーションの最終ゴールはツールの導入ではなく、生産性や効率の課題に対処するチャンスだと考えられる」とした。

進行中の精度向上
サプライチェーン(SC)を成功に導く課題としては、インテリジェントテクノロジーによるイノベーション、変化する顧客期待への迅速な対応などが挙げられたほか、「いくらでもテクノロジーに投資できるわけではなく、コストとバランスを取りながら可用性や在庫レベルを適正化するのが優先課題だと捉えている」(吉川氏)と重要性を見極める。
モダナイゼーションが進まない場合の問題点としては、「サービス水準合意(SLA)不履行による金銭的負担」「人手不足と手作業による業務効率の妨げ」などが挙がった。

大きな利害問題に立ち向かう
吉川氏は「お客さまの現場に訪問させていただくと、人が採用できないという話はよく聞く。現場における情報通信(IT)は、それほど進んでおらず、まだ人に頼ったオペレーションが残っている。76%の経営者が顧客の需要変化に対応しなければいけないというプレッシャーを感じており、この部分は迅速に解決していかなければいけない状況にある」とした。
一方で、SLAの各指標については変化してきており、2024年度と2025年度を比べると、「受注精度」「返品処理」「納期ズレ」の課題感が上がっている。これに対しては「データを使ったイノベーションやプロセスの合理化が求められているのではないか」(吉川氏)と分析する。

大きな利害問題に立ち向かう
さらに5年後を見据え、長期的な倉庫業務の改善をどうしていくべきかという質問については、「段階的な自動化が進行していくだろう。2024年度と比較し、RFID、固定式の産業用スキャナー、リアルタイムでの可視化の重要度が増加していくだろう」と予測。一方で懸念材料としては「人手不足」「テクノロジーデバイスが使いにくい」などが挙がった。

倉庫業務の変革
吉川氏は「日本では、たくみの技や人海戦術など人に依存したオペレーションがかなり多い。これは倉庫業務に限ったことではないが、日本人は勤勉がゆえに、自動化が遅れていると感じる場面がある」(吉川氏)と日本独自の課題も指摘した。
今後は、マシンビジョンやモバイルセンサー、RFID、固定式産業用スキャナーなど、データの精度を向上できる技術に注目が集まるとのこと。「センサーを導入し、自動化するためのデータ精度が向上しても、現場には必ず人が介在し、無人になるわけではない。そのため、人と技術が調和して働く環境が求められている」(吉川氏)とする。
現場スタッフが課題解決に役立つと考えるツールは、協働ロボット(世界88%、APAC91%)や、モバイルデバイス(世界88%、APAC90%)、コミュニケーションアプリ(世界87%、APAC90%)、タスク管理ツール(世界91%、APAC94%)など。
吉川氏は「10年前はIT機器を触り慣れていないスタッフもいたが、現在ではスマートフォンなどの普及により、抵抗感がなくなっている。以前はツールを入れても失敗してしまうケースがあり、導入企業は意見聴取を念入りに行うようになった。加えて、ツール選択時に現場のスタッフに意見を聞くケースが増えており、実際に使用する人がどのように感じるかが重要になっている」と変化を挙げる。

パフォーマンスの強化
こうした変化を背景に、テクノロジーの導入については、従業員の90%が支持しているとのこと。倉庫業務に関連するロボティクス、デバイスの導入は、従業員の採用や雇用維持にも重要な役割を果たしている。
ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン社長の古川正知氏は「世界中のスタッフは、業務に適切な自動化ソリューションを組み込むことで、自身の働き方が改善されると訴えており、これは倉庫ソリューションを強化する必要があるという明確なサイン。資材の移動、データ収集、情報管理の自動化は、全ての関係者にWin-Winの成果をもたらす。これにより、多忙な倉庫での安全性が向上し、SLAを効果的に順守しながら、市場への高品質な商品の安定供給の維持が可能となり、顧客満足度と従業員のエンゲージメントの双方が向上する。現場スタッフは倉庫での作業のうち、望まない作業に時間を費やしていることが多いのが現状。経営層が積極的にデジタル化、自動化とインテリジェンスの向上を推進し、現場のオペレーションを支えることが不可欠で、ゼブラはこの変革をリードしていく」とコメントしている。

ゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン社長の古川正知氏

顧客中心の変革