Dataiku Japanは5月14日、「AIエージェント日常化への挑戦」と題した報道向け説明会を開催した。併せて、「ユニバーサルAIプラットフォーム」にAIエージェントの構築と制御機能を導入したことを発表した。
Dataiku Japanの取締役社長でカントリーマネージャーの佐藤豊氏は、生成AIが非常に熱狂的な状況を経て、いかに概念実証(PoC)の段階で終わらせることなく、実用化へとつなげていくかが重要な課題となっているとし、現在は「転換期を迎えている」との見解を示した。
その上で、 AI導入における障壁として「技術の壁」「ツールの壁」「組織の壁」「人材の壁」「ガバナンスの壁」の5つを挙げる。
まず「技術の壁」では、急速な進化を続けるAI技術に追随することや、既存システムとの複雑な統合が課題に挙げられる。また、「ツールの壁」として、データ分析、機械学習、生成AIなど多様なツールが個別に存在し、それぞれがサイロ化することで連携が複雑になり、カオスな状況を生み出している現状がある。さらに「組織の壁」は部門間の連携不足や、IT部門とビジネス部門の間における断絶といった形で現れる。
「人材の壁」では、AIリテラシーの格差や、限られた専門家への依存という、世界共通の問題がある。そして、AIプロジェクトを本番運用する段階で不可欠となるのが「ガバナンスの壁」である。これは、統制やコンプライアンスをいかに確保するかに加え、AIエージェントの普及によってその複雑さがさらに増している。

AI導入の「5つの壁」
こうした課題を解決し、企業全体でAIの価値を引き出すために、Dataikuは「Everyday AI」というビジョンを掲げ、「AIが特別なものではなくなる時代」(佐藤氏)を目指している。
同氏は続いて、全社的なAI活用には「ハブ&スポークモデル」が有効であると提唱する。これは、中央の専門家チームがハブとなり基盤提供やガバナンスを担いつつ、現場のビジネス専門家がスポークとして創造性と現場知識を生かしてAIソリューションを開発・運用する構造だ。このモデルを成功させるには、「強固なデータ&AI基盤の構築が不可欠」(同氏)になる。この基盤は「データ&AIインフラ基盤層」と「AI開発・運用オーケストレーション層」の二層構造で構成されるとのこと。
そのニーズに応えるのが、DataikuのユニバーサルAIプラットフォームになる。多様なシステムが混在するエンタープライズのAIエコシステムにおいて、データエンジニアリングから、アナリティクスやモデル、エージェントといったAIアセットの構築、さらにはそれらの日常業務への組み込みまでを、シンプルかつ統合的に実現することを目指している。
ユニバーサルAIプラットフォームは、AIの開発と運用という両面を包括的にカバーする機能を備えている。開発面においては、エンタープライズグレードの生成AIやエージェント、ガイド付き「AutoML」を含む機械学習機能、そして信頼できるデータに基づくアナリティクス機能を提供する。また、データ準備からモデル展開までを一貫して単一環境で実行できる機能も有する。一方、運用面では、一元的なAIガバナンスを実現する機能や、データパイプライン、モデル、エージェントの本番管理を統合するAIエンジニアリング機能を提供する。また、既存インフラや新規ツールの導入にも柔軟性を保ちながらエコシステムを統合し、ベンダーロックインを回避する。
Dataikuのプラットフォームの大きな強みは、「中立性」にあると佐藤氏は強調する。まず技術的な中立性については、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudといったパブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミス環境からハイブリッド環境まで多様なクラウド環境に対応できるクラウド中立性を担保している。さらに、ハイパースケーラーだけでなく、さまざまな企業が提供するデータプラットフォームとの中立性も持ち合わせている。加えて、OpenAIやAnthropicといったプロプライエタリーなAIサービスから、LlamaやDeepSeekのようなオープンソース系のサービスまで、多様なAIサービスに対しても中立的な立場を保っている。これにより、Dataikuは既存企業のインフラ環境から将来的な構想までを、「接着剤のようにつなげる」(同氏)ことが可能となるとしている。
加えて、中立性は技術的なものにとどまらないといい、「最終的に組織文化やビジネスそのものを変革するためには、ユーザーへの中立性も不可欠」と佐藤氏は話す。Dataikuのプラットフォームは、全てのユーザーがデータを活用できる環境を目指している。具体的には、ビジネスユーザー向けのノーコードツールや、データアナリスト向けのクエリー言語、「Tableau」や「Power BI」といったビジネスインテリジェンス(BI)ツールとの連携機能を用意している。一方、データサイエンティストにとっては、最も作業しやすい「Jupyter」などの開発環境との連携や、「Python」「R」といったプログラミング言語の使用も可能である。また、モデルガバナンスの観点ではハイパースケーラーのモデルとの連携に対応したMLOps機能も提供している。
現在、特に注目を集めているのが、AIエージェント領域への対応強化だ。AIエージェントは、プロセスの自動化、従業員の支援、企業インテリジェンスの強化、新サービスの開発といった可能性を秘めている。一方、これを企業規模で導入するとなれば、多くの課題が山積しているのが現状だ。具体的には、機能の限定性、データ品質の問題、既存システムとの連携の難しさ、技術的な不安定さが挙げられる。さらに、複雑なマルチエージェントシステムにおいては、脆弱(ぜいじゃく)性の存在や、問題発生時の診断の困難さも大きな課題となる。
Dataikuでは、これらの課題に対応するため、ユニバーサルAIプラットフォームを拡張し「AI Agent with Dataiku」を提供する。具体的には、ノーコードとフルコードの開発環境を統合する「Visual&Code Agent」、多様なモデルプロバイダーへ一元的にアクセス管理することを可能にする「LLM Mesh」、単一のインターフェースからエージェントを管理できるようにする「Agent Connect」、エージェントの挙動を可視化する「Trace Explorer」、自動評価・監視・予算管理を行う「Quality&Cost Guard」といったコンポーネントで構成される。

AI Agent with Dataikuの特徴
佐藤氏は、データとAIを最大限に活用し、企業が持つデータを基盤としたAIエージェントを実際の業務プロセスに実装するのを支援することが同社の役割であると話す。この目標を達成するためには、日本でもAI活用の成熟度を段階的に引き上げていくことが不可欠となる。その第一歩として、まずはどのようなデータが利用可能であるかを正確に把握し、それらのデータを統合し、さらに可視化を進めることから着手する必要がある。
その上で、AIエージェントが単に推論結果を示すだけでなく、その判断に至った根拠となるデータを明確に提示できるよう、予測分析や機械学習の実装が極めて重要となる。加えて、生成AIがどのような振る舞いをし、どのようなアウトプットを生み出すのかを深く理解する必要があるため、生成AIの統合的な活用もまた欠かせない要素となるという。
「データから確かなビジネス価値を創出し、それを基に事業を構築していくためには、こうしたプロセスを深く理解し、AIエージェントを単なるブラックボックスにしないことが極めて重要だ」(佐藤氏)