時代変化に対応しない企業は衰退・劣化・消滅の危機に--ガートナーがテクノロジー人材を将来展望

藤本和彦 (編集部)

2025-05-15 12:12

 ガートナージャパンは5月15日、テクノロジー人材の将来に関する最新の展望を発表した。全ての人は時代が歴史的な転換期にあると捉え、自分自身を時代の変化に合わせてアップデートする必要がある、との見解を示した。

 同社によれば、ヒューマノイドや汎用(はんよう)人工知能(AGI)といったテクノロジーや、それらを前提とした新たな産業革命やデジタル戦争など、これまで経験したことのない事象が急速に現実のものとなりつつあり、時代は歴史的な転換期を迎えている状況だという。

 一方で、このような状況下でも、紙や印鑑、手作業といった旧態依然とした仕事のやり方を継続する人や組織はいまだに多く存在する。しかし、生産性や効率性の観点から、このような従来の仕事の進め方を見直そうという動きも進んでいる。加えて、生成AIからAIエージェント、さらにはエージェント型AIやAGIへと技術が革新を遂げる中で、時代遅れとなってしまった業務プロセスを、こうしたテクノロジーで刷新し、置き換えようとする機運と、それにかかるプレッシャーは次第に高まりつつある。

 一方で、単に既存のプロセスをテクノロジーで置き換えるという議論や実践にとどまらず、AIと人間が共生することを前提とした、全く新しいビジネススタイルを模索する動きも加速している。今後は、人間が多種多様なマルチエージェントと共存しながら、常に変化するダイナミックな環境の中でタスクを遂行していくことになるという。

 ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏は次のように述べる。「この流れは、業務部門だけでなくIT部門にも波及し、全体として、作業的業務を継続しようとする人は職を失う可能性がある」

 Gartnerの見解では、2028年を迎えるまでに、作業者的な仕事に従事している人々の90%は、担当業務の廃止に直面するだけでなく、AIアシスタントやヒューマノイドによって職を奪われるリスクが高まるという。

 「これからAIは、さらに進化し、精度を向上させ、気を利かせるようになる。そうすると、逆に、進化しない、気が利かない人の在り方が問われるようになる。今はAIのハルシネーション(Hallucination:もっともらしいが誤った回答を返すこと)が問題視されているが、これからは、もっともらしいうそをつく『人間のハルシネーション』の方が深刻な問題となってくるだろう。この意味において、AIの進化は、人間の在り方そのものに対して重要な問いを投げ掛けている」(亦賀氏)

 一方、Gartnerは、2028年までに、日本企業の従業員の70%は、企業や組織のためではなく、自分の生き残りのために新たなケイパビリティー(能力)を獲得するという仮説も立てている。

 近年、資格取得を支援するオンライン講座やAIを活用した英会話アプリなど、従業員が自身の費用負担で比較的容易に新たな知識やスキルを習得できる機会が増えている。このような状況の中、今後、新しいケイパビリティーを積極的に身に付け、自己成長を図り活躍を目指す人々が、より有利なキャリアを求めて転職する事例が増加し、それに伴い企業間の人材流動性が活発化する。その結果、高い専門能力を持つ人材を巡る企業間の争奪戦が激しさを増し、給与や雇用条件における競争の加速といった形で、従来の雇用形態そのものの見直しが進むとGartnerは分析している。

 企業は、「People Centric」の原則に基づき、従業員を大切にし、活力を与え、能力を発揮できる環境を整えることを推進するマインドセットと実践を尊重し、そのための時間と資金を割り当てる具体的な施策を人材投資戦略の1つの柱とする必要があるという。

 これを実現するためには、部門長や部課長といったマネジメント層が、「学習する組織」を目指し、これらの施策を日常業務に取り入れ、現在の仕事の進め方や時間の使い方を根本的に見直すことが肝要となる。具体的には、不要な会議、メール、手続き、報告といった削減可能なものは徹底的に排除し、新たな学びのために時間を確保することが重要となる。そして、個々人もまた、この変化を自分事として捉え、自らのタレント価値を高め、新たな能力を獲得すべく、好奇心を大切にしながら、楽しみつつ自助努力を行う必要があるとしている。

 「全ての人は、時代がかつてない歴史的な転換期にあると捉え、自分自身を時代の変化に合わせてアップデートする必要がある。また、全ての企業は、テクノロジー人材、すなわち、テクノロジーを駆使できる人々を増やしていく必要がある。時代の変化に対してケイパビリティーを何らアップデートすることもなく、時が過ぎていくだけの企業、組織は、時代の変化に対応できず、衰退し、劣化し、消滅する可能性が高まる。このことは、今後、さらに大きな経営リスクとなっていくだろう。よって、ITリーダーには、経営者と共にテクノロジーに関わる人材の将来について、産業革命クラスの大変化を前提に、今まで以上に真剣かつ大胆なアクションを取ることが求められている」(亦賀氏)

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]