住吉工業、最終処分場の水質を予測するAIモデルを開発--NTT Comが伴走支援

寺島菜央 (編集部)

2025-05-16 07:05

 最終処分場を運営する住吉工業(山口県下関市)は、ノーコードAIツール「Node-AI」を活用し、担当者が自ら水質予測モデルを開発した。同ツールを提供し、技術サポートの伴走支援を行ったNTTコミュニケーションズ(NTT Com)が5月15日に発表した。

 同日に行われた報道機関向けの説明会では、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター テクノロジー部門 プロダクトマネージャーの切通恵介氏が、Node-AIを活用したAIモデル開発と住吉工業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の自走化に向けた支援について説明した。

 廃棄物を埋め立てて処分する最終処分場から発生する排水は、環境省が定める水素イオン指数(pH)などの水質基準を常に満たす必要がある。住吉工業では、水質の日常点検を365日実施しており、ポータブルpHメーターを用いて7箇所の測定を行い、各地点のpH値と水温の結果を「Excel」で整理し、水質変動を把握している。

日常的な水質検査の様子(提供:NTT Com)
日常的な水質検査の様子(提供:NTT Com)

 一方、365日の点検で休日勤務が必要となっており、作業員の負担や人件費の増大、また作業が危険なため労災リスクなどが課題となっていた。今回の取り組みでは、水質の予測値をデータからAIで予測し、作業員の派遣を判断できるようにすることで、休日勤務の削減を目指すという。

 しかし、水質の予測に当たっては降雨量などの複数の要因でpHが変動するため人での予測が困難であったり、15年間記録していた水質データを活用できる人材がいなかったりと、取り組みを進める中で課題もあった。

 切通氏はこれらの課題を解消するため、「(住吉工業の)DXの自走化にチャレンジした」と述べる。自走によるデータ活用DXでは、担当者が自ら分析や開発をするため、仮説検証を素早く回せるほか、DXの文化を醸成する機会にもつながるとしている。NTT Comは自走化に向け、住吉工業に対してデータサイエンティストによる分析テーマ設定支援やハンズオンを含むAI人材育成セミナーの実施、Node-AI上での分析の伴走支援を実施し、自らAI開発ができるデータ活用人材の育成を行った。

DXの自走化を目指してNTT Comが伴走支援
DXの自走化を目指してNTT Comが伴走支援

 Node-AIは、販売データやIoTセンサーデータなどの時系列データの分析に特化しており、数値予測や異常検知などの課題を解くためのAIモデルを開発できる。プログラミング不要で、ブラウザー上で前処理や学習などのカードを直感的に組み合わせるだけで分析フローを構築できるとしている。

 住吉工業の担当者は同ツールを活用し、各測定箇所における過去の水質管理データ(pH値、水温、外気温、雨量)をAIに学習させ、2日後の放流水の水質を予測するAIモデルを構築。AIで予測したpH値と後日実際に測定したpH値を比較したところ、予測データの87.5%がプラスマイナス0.2の誤差範囲内であったことから、実用化につなげられるとした。

AIを活用した水質予測の結果
AIを活用した水質予測の結果

 この取り組みによって住吉工業では、休日勤務による作業員の負担を軽減して年間で約504時間の労務時間を削減し、年間100万円以上の人件費の削減効果が見込まれるとしている。また、作業員が検査に行く頻度を減らすことができるため、労働災害のリスクの減少も期待している。

 人材育成の観点からも、自社でデータ分析ができるようになったことから、AIを活用する企業文化の形成を目指すとしている。今後は複数地点での水質予測を実施するAIモデルを開発する計画だという。住吉工業の担当者は、「今回の開発では、AIを用いた精度の高いpH予測が可能であることを確認できた。職員による休日の測定対応をなくすことができるDX化の第一歩を踏み出すことができた。今後は気象庁などが提供する気象予報を加えることでさらに精度の高い未来予測を行うことにチャレンジしたいと考えている」と展望を述べた。

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