東大とIBM、量子コンピューターに「IBM Heronプロセッサー」導入--スパコンと接続も

大河原克行

2025-05-19 06:30

 東京大学と日本IBMは、国内で稼働している「IBM Quantum System One」に、156量子ビットの「IBM Heronプロセッサー」を導入すると発表した。2025年9月を目標にしている。また、2025年後半には、スーパーコンピューター「Miyabi」と接続し、量子を中心としたスーパーコンピューターの環境を実現する計画も明らかにした。

東京大学 総長の藤井輝夫氏(左)と日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏(右)
東京大学 総長の藤井輝夫氏(左)と日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏(右)
「IBM Quantum Heronプロセッサー」
「IBM Quantum Heronプロセッサー」

 東京大学 総長の藤井輝夫氏は、「気候変動、国際紛争、飢餓や貧困、感染症の問題など、地球規模および地域課題は、既存の手法だけでは解決できず、新たな発想で困難を乗り越える糸口を見つけなくてはならない。量子コンピューターは新たな知に裏打ちされた技術であり、既知の問題を高速に解くだけでなく、これまで手掛けることができなかった未踏の問題を解決できる」と前置きし、「今回の2つの取り組みは、大きな意義を持つ。IBM Quantum System Oneの活用を通じて、日本の量子戦略における新たな技術の創出と、量子科学の探求を進め、社会に実装し、人類が直面する歴史的課題に積極的に取り組んでいく」と抱負を述べた。

東京大学 総長の藤井輝夫氏
東京大学 総長の藤井輝夫氏

 また、日本IBM代表取締役社長の山口明夫氏は、「IBM Heronプロセッサーは、量子ビット数が最大であるだけでなく、量子ビットのエラー率、量子演算の処理速度でも世界最高の水準となっている。今まで以上にスケールが大きなアプリケーション、アルゴリズムの研究に果敢に挑戦できる環境が整う。量子コンピューターをさらに進化させていくと共に、スーパーコンピューターと接続することで、量子中心のスーパーコンピューティング(QCSC)を実現し、2年以内に今までのスーパーコンピューターを大きく超える成果を出せる。IBMは、量子コンピューターをしっかりと提供し、成果を積み上げ、より多くの社会課題の解決に貢献すると共に、できたらいいなという夢を実現できるアウトプットを出せるようにしたい」と述べた。

日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏
日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

 東京大学とIBMは、2019年12月に「Japan–IBM Quantum Partnership」を設立し、2020年6月には日本IBMと共に産学協創協定を締結。2021年7月には日本初のゲート型商用量子コンピューティングシステム「IBM Quantum System One」を、神奈川県川崎市の新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)で稼働し、量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)のメンバーが活用している。750人以上の研究者が常時利用し、140件以上の研究論文を発表するという実績を持つ。

IBM Kawasaki導入の経緯と進捗(しんちょく)
IBM Kawasaki導入の経緯と進捗(しんちょく)
「IBM Quantum System One」
「IBM Quantum System One」

 当初は、27量子ビットの「Falconプロセッサー」を搭載していたが、2023年に127量子ビットの「IBM Eagleプロセッサー」を導入したシステムに更新。産業界などとの連携を図ることで、日本の量子コンピューティングの発展に貢献してきた。今回のIBM Heronプロセッサーの導入は、2回目のアップデートとなる。

156量子ビット Heronプロセッサーへのアップグレード
156量子ビット Heronプロセッサーへのアップグレード

 現在、IBMでは全世界で約80台の量子コンピューターを稼働させているが、そのうち、IBM Heronプロセッサーを搭載した量子コンピューターは4機だけだ。チューナブルカプラーアーキテクチャーを採用しており、従来のEagleプロセッサーと比べて、2量子ビットでのエラー率が3~4倍改善されているほか、100量子ビットの長いレイヤーのエラーをベンチマークとしたデバイス全体のパフォーマンスを1桁向上させ、CLOPS(量子システムの速度を定量化する指標)は60%増加できると予想している。また、速度は継続的に改善し、システムの稼働時間は95%以上となり、パフォーマンスを大幅に向上させている。

 東京大学 理事・副学長の相原博昭氏は、「中央値(T1)は、300マイクロ秒に到達しており、超伝導量子計算機では最高となる。2量子ビットでのエラー率は1万回に5つの未満という水準である」と説明した。

東京大学 理事・副学長の相原博昭氏
東京大学 理事・副学長の相原博昭氏

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