JALに学ぶSnowflakeとStreamlitの活用法--「現場主導のデータ活用文化」達成へ

大河原克行

2025-05-20 10:19

 日本航空(JAL)は、SnowflakeおよびStreamlitを活用した業務改善事例について説明した。

 Streamlitは2023年4月に、Snowflakeが買収。オープンソースのPythonライブラリであり、機械学習やデータサイエンスのためのカスタムウェブアプリを簡単に作成、共有できるのが特徴である。

 JALでは、データの抽出や加工、可視化を、現場社員自らが行える仕組みを構築。現場の声を迅速にアプリ化し、業務改善へとつなげ、属人化していたツールを統一したほか、利用状況の把握によるガバナンス強化も実現し、「現場主導のデータ活用文化」を達成しているという。

 JAL デジタルテクノロジー本部デジタル戦略部活用推進グループ長の庄司稔氏は、「SnowflakeとStreamlitの組み合わせにより、データドリブンな意思決定を定着させることで、生産性向上、顧客満足向上、収支改善を目指している。0を1にしたり、1を2にしたりといったことが可能になる。さらに、SnowflakeとStreamlitによるクラウド技術と、JALが持つデータをつなげて、日本全体を豊かにし、社会貢献をしていきたい」と述べ、「JALでは、『つながりは、未来への翼だ。』というJAL FUTURE MAPを掲げている。デジタルとデータの活用で、これを実現できる」と抱負を述べた。

日本航空 デジタルテクノロジー本部デジタル戦略部活用推進グループ長の庄司稔氏
日本航空 デジタルテクノロジー本部デジタル戦略部活用推進グループ長の庄司稔氏
Snowflake&Streamlitで目指す世界
Snowflake&Streamlitで目指す世界

 JALでは、オンプレミスで稼働させていたデータ活用基盤の更新期限が2024年3月に迫っていたこともあり、2019年以降、オンプレミス環境からの移行を視野に、Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Redshift」を用いたクラウドサービスの一部導入を開始。これを皮切りに、クラウド化を推進してきた。まずは、オンプレミスのデータウェアハウス(DWH)を利用しながら、クラウド上へのデータ蓄積を並行的に推進。クラウド環境への移行作業を最小化することを想定した取り組みを開始していった。

Snowflakeへの道のり
Snowflakeへの道のり

 一方、JALを取り巻く事業環境も変化していった。コロナ禍を経て、Full Service Carrier(FSC)だけの事業では、外部要因の影響を受けやすいことが浮き彫りになったことで、新たな事業領域への進出を模索しはじめており、ライフや地域、貨物、格安航空会社(LCC)などへの展開が始まっていたところだった。これらの分野への進出において、オンプレミスシステムは阻害要因になると判断。さらに、「2025年の崖」への対応をはじめ、デジタルトランスフォーメーション(DX)やデータ活用の推進が模索されていたときでもあり、クラウド移行は避けられないものであったといえよう。

 そうした中で着目したツールの一つが「Snowflake」であった。同社では、「事業貢献範囲を高める力」と「事業で必要となるデータを収集する力」を重要な要素に掲げ、特に後者を実現するために、社内データだけでなく、外部データ収集を簡単に行い、データコラボレーションを可能にするツールとしてSnowflakeの採用を決定した。

次世代のビジネスのエンジンとなる基盤を目指す
次世代のビジネスのエンジンとなる基盤を目指す

 JALの庄司氏は、「次世代のビジネスのエンジンとなる基盤として、Snowflakeを採用した」と位置付ける。

システム移行、データ移行、業務移行の3つのフェーズで展開

 データ活用基盤の移行は、2024年3月を期限とし、システム移行、データ移行、業務移行の3つのフェーズで展開。さらに、3カ月間の並行稼働期間を設けて、安定稼働を確認したのちに、完全移行を図ることにした。

データ移行のスケジュール
データ移行のスケジュール

 JALの庄司氏は、「Snowflakeは、データシェアが可能になる点が最大の魅力である。本社だけでなく、グループ内でのデータ連携からスタートし、アライアンスを行っている他の航空会社や業界団体とのデータ連携のほか、お客さまの価値を最大化するためにマーケットプレイスから得ることができる外部データを活用し、サービスの向上につなげることができる。Snowflakeのデータシェアリングの機能を利用することで、さまざまなデータを活用できる点は大きな魅力である」とした。

データシェアで広がる世界
データシェアで広がる世界

 さらに、「将来的には外部にもデータ提供を行う。公共交通機関であるJALのデータを提供することで、社会の発展にも貢献できる。また、これはデータのマネタイズにもつながる」とした。

 Snowflakeを導入したJALであったが、次のステップとして、これを使いこなし、いかにDXに貢献するかを考えたときに、最適なツールとして検討を開始したのが「Streamlit」であった。

 JALの庄司氏は、「事業会社のDX(IT)部門としては、Snowflakeを導入しただけで終わるのではなく、これをいかにDXにつなげることができるかが求められる。そうしたときに、記事を見て知ったのが、NTTドコモがStreamlitを導入し、全社規模で運用することで、成果を上げていることだった」という。

 NTTドコモでは、Streamlitにより、全社規模でのデータ活用を促進。9900万人の会員データからスピーディーな価値創造を実現していたという。

 庄司氏は、2024年4月に、20代の社員2人とともに、NTTドコモを訪問。「Streamlit導入に関するコツを伺ってきた。データをビジネスに活用するための方法や、開発からローンチに至るまでの体制作り、データカタログなどの必要なツールの整備、社内に広げていくための仕組み作りなどについて話を聞くことができた」という。

 NTTドコモの導入、運用の実績を参考にしながら、2024年7月までに事前調査を実施。環境構築を経て、10月からはJALデジタルとともにアプリ作成を開始し、12月からアプリを社内に展開していった。

NTTドコモの導入を事前調査
NTTドコモの導入を事前調査
Streamlit活用を実現するまでのスケジュール
Streamlit活用を実現するまでのスケジュール

 「JALのDXは、経済産業省による「DXの定義」と同様に、データとデジタル技術を活用していくものになる。各本部の課題解決につながる社内外のデータを特定し、収集、蓄積するデータ整備活動から実行した。また、収集、蓄積したデータをビジネスの課題にひもづけて、可視化および分析することが重要である。分析に必要なデータは何かを特定して、可視化、分析につなげるためのデータ整備を行い、そこにStreamlitを実装することで、データドリブンな意思決定を定着させることにも取り組んでいる」という。

経済産業省によるDXの定義
経済産業省によるDXの定義

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]