Microsoftは米国時間5月13日、ワシントン州シアトルで開催の年次開発者会議「Build」で、独自開発するAIシステムの将来に向けた戦略的ビジョンを明確にする複数の発表を行った。
Copilot Tuning
同社は、企業顧客が内部データとプロセスを用いてカスタムモデルやエージェントを訓練し、特定のタスクをコーディングなしで実行できる新機能「Copilot Tuning」を発表した。
MicrosoftのAI at Work部門で最高マーケティング責任者を務めるJared Spataro氏は、同社のブログ記事で次のように説明する。「例えば、法律事務所は独自の意見や専門知識を反映したエージェントを作成し、文書作成を自動化できる。さらに、組織の知識とクライアント固有の文脈を融合させ、可能な限り強力な弁論の作成も可能だ」
Spataro氏によると、Microsoftは独自の顧客データを基盤モデルの訓練には使用しないという。この機能は、6月に「Microsoft 365 Copilot Tuning Early Adopter Program」の一部として提供開始を予定している。
Multi-Agent Orchestration
同社はまた、「Multi-Agent Orchestration」も発表した。現在はパブリックプレビューで利用可能となっている。この技術は、複数のエージェントを単一のネットワークにまとめ、情報共有や連携作業をしながらタスクを完了させる。このエージェント間の連携により、従業員はAIにタスクをスムーズに任せられるようになる。
「Copilot Studio」で構築されたエージェントの微調整を開発者がより細かく制御できる、一連の新しいツール群も発表された。
- Azure AI Foundry Models:「Azure AI Foundry Models」の連携機能により、顧客は独自のAIモデルをCopilot Studioに取り込むことが可能となる
- Entra Agent ID:これは、新しいエージェントにID、すなわち組織固有のセキュリティ権限と監視制御を自動的に割り当てる新しいツールになる
- Purview Information Protection:エージェント全体のデータセキュリティを強化する
- Microsoft 365 Agents Toolkit:ユーザーが好みのAIスタックを使用してエージェントを構築できるようにする。このツールキットには、ソフトウェア開発キット(SDK)と「Teams AI Library」が含まれる。Teams AI Libraryでは、「Teams」内で動作するエージェントを構築できる
- Microsoft 365 Copilot API:開発者は「Copilot Chat」からのデータを組織の内部アプリやデジタルインフラに組み込むことが可能となる
Solution Workspace:開発者が自然言語プロンプトを介してアプリを構築できる、単一の統合されたデジタル環境を提供する
Agent Feed:開発者がエージェントとそのタスク全体のパフォーマンスを監視できる直接インターフェースとして機能する
カスタムAIについて
これまで技術開発者は、普遍的に機能するモデルの構築に注力してきた。しかし、最近では、個々のニーズに合わせたカスタマイズや専門化、パーソナライゼーションが重視されている。現在、あらゆる個人や組織が、それぞれのデータやニーズに合わせて独自に訓練されたAIツールを利用できる。
Microsoftはこのアプローチに特に積極的である。例えば、同社はいわゆる小規模言語モデル(SLM)の支持者である。これは、大規模言語モデル(LLM)とは異なり、比較的安価に訓練でき、特定の企業の閉鎖されたデータエコシステム内で動作するように設計された小型システムである。
同社はまた、AIエージェントに研究開発費を投入してきた。これは、自然言語でコミュニケーションをとり、人間のユーザーに代わって自律的にタスクを実行するように設計されたシステムになる。2023年後半には、顧客が独自のカスタムエージェントを構築できるプラットフォームであるCopilot Studioを発表している。
これらの新機能は、AIの実用化を進める同社戦略の核となる部分、つまり「誰もが使うツールだけではなく、特定の個人や組織向けに設計されたツールを構築、展開する」ことを示唆している。同社は、このアプローチが、現在進行中のAI競争において自社を差別化すると考えている。
Spataro氏は、「今日の発表は、全ての従業員にCopilotの力を与えるために必要なツールを開発者に提供するというわれわれの野心をさらに推進するものだ」と述べている。

提供:Microsoft / ZDNET
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。