Dynatraceは5月21日、米本社の最高経営責任者(CEO)を交えた事業戦略説明会を開催した。
Dynatrace CEOのMcConnell氏
まず概要説明を行った米Dynatrace CEOのRick McConnell(リック・マコーネル)氏は、IT環境が複雑化し、データ量の爆発的な増加が続く中、従来のような人手による運用管理では障害の発生に迅速に対処したり、大量のデータの中から障害の予兆を見つけ出したりすることはほぼ不可能になっていると指摘し、オブザーバビリティに対する関心が急速に高まり、市場規模が急成長しつつあるとした。
同氏は日本市場について、「そもそも市場規模が大きい」「ユニークかつガラパゴス化したIT環境を運用する大企業が多い」「オブザーバビリティがトップ企業において経営アジェンダ化しつつある」といった状況から日本での事業に大きな期待を寄せていると語った。
同氏は、同社の競争優位性として、独自開発のデータレイクハウス「Grali(グレイル)」と、10年以上前から継続的に開発してきたAI機能「Davis AI(デイビスAI)」の2点を挙げた。Grailはスキーマレスであらゆるデータタイプを格納でき、高度な分析を実行できる単一のデータソースとして機能する。ここにあらゆるデータを格納し、目的に応じてさまざまな分析を実行できる点が同社の強みとなっている。
Davis AIの概要
Davis AIは、障害の根本原因を突き止めることができる“Causal AI(因果AI)”、障害発生の予兆を掴んで事前に警告できる“Predictive AI(予測AI)”、自然言語による使いやすいインターフェイスを提供する“Generative AI(生成AI)”の3種の異なるAI技術の組み合わせで構成されている。Davis AIを中核に組み込んだことで、Dynatraceは「人間の介入を必要とせず、自動的に修復、保護、最適化を行うエージェント型AIプラットフォームへと進化した」という。
McConnell氏は競合他社との違いとして、オブザーバビリティ製品が対象とする4つの異なるレベル全てを統合した点を挙げた。4つのレベルとは「モジュールレベル」(APM、インフラストラクチャー、アプリケーションセキュリティ、ユーザー体験監視など)、「データレベル」(ログ、トレース、メトリクス)、「ペルソナレベル」(CxOs、IT運用者、プラットフォームエンジニア、サイトリライアビリティーエンジニア、開発者)、「技術・ビジネスレベル」(経営層レベルのビジネス分析)で、市場に存在する競合製品では、こうした個々の領域のどれかに特化した製品が多い。
オブザーバビリティ製品が対象とするさまざまな領域を4つのレベルに分けたもの。その全てをDynatraceで統合的に監視できるという
Dynatrace自身もかつてはAPM分野に特化した製品だったが、6年前にGrailの開発に着手し、全てのデータを統合する方針にかじを切ったという。一方で競合各社はそれぞれのデータを個別に扱うサイロ化された状態であるため、同社と同水準の統合を実現することはできないと同氏は強調した。
こうした統合の結果として、一般的にはIT部門などの技術担当の部署が使うツールというイメージのあるオブザーバビリティ製品だが、Dynatraceに関しては経営層がビジネス分析に活用することもできる製品になっているという。
McConnell氏は、中東で最大規模の銀行であるユーザー企業でのエピソードとして「日頃Dynatraceを活用している最高情報責任者(CIO)から『CEOがDynatraceのダッシュボードを自分の机に置きたいと言われている』と聞かされた」と紹介し、従来のITシステムの運用監視ツールという枠を超えた統合的な可視化ができる製品となっていることを強調した。
Dynatrace 代表執行役社長 徳永信二氏
続いて国内事業戦略について説明したDynatrace 代表執行役社長の徳永 信二氏は、同社が日本市場での活動を本格化させたのが2021年で、自身の就任が2023年秋だったと明かした上で、競合他社に比べて日本での取り組みが遅れた事実はあるものの、現在はエンタープライズユーザーを中心に顧客接点の拡大に取り組んでいる最中だとした。
同氏は注力業界として「製造業」「金融業」「デジタルエンターテインメント」を挙げたが、いずれも「ITシステム全体をユーザー視点でモニタリングできるプラットフォームがまだ存在しない」ことを課題としており、同社がそこを解決できるということで関心が高まりつつあるとした。
実際に包括的な導入の検討が始まるなど案件の大型化傾向も見えているといい、同氏は今後の事業予測として「FY26(2025年4月~2026年3月)は、FY25(2024年4月~2025年3月)から3倍以上のビジネスを見込む」としている。
日本市場に向けた取り組み