本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NTT 代表取締役社長の島田明氏と、日本ビジネスシステムズ 代表取締役社長の牧田幸弘氏の「明言」を紹介する。
「当社はNTTを正式名称とし、グローバルで事業展開を加速していきたい」
(NTT 代表取締役社長の島田明氏)

NTT 代表取締役社長の島田明氏
NTTの島田氏は、同社が先頃開いたCI(コーポレートアイデンティティー)刷新の発表会見で、上記のように述べた。同社はCI刷新によって、これまで通称として使われてきたNTTを正式な社名とし、コーポレートロゴも変更し、NTTグループとして企業ブランドを統一することを発表した。それに先駆け、上場子会社でITサービスを提供するNTTデータグループ(以下、NTTデータG)を完全子会社化することも発表した。まさしく「ワンNTT」を目指した動きに対し、筆者なりの見方を述べたかったので、明言として取り上げた。
NTTデータGの完全子会社化については、島田氏は同社との共同会見で「NTTデータGが取り組む事業をNTTグループの成長の原動力と位置付け、より機動的な成長投資を行い、事業のポートフォリオを強化していく」と力を込めた。
現状のNTTとNTTデータGの資本関係の課題については、「親子上場に伴う利益相反」「複雑な意思決定プロセス」「経営資源投下に伴う双方株主への説明責任」といった課題を挙げ、それらを完全子会社化によって克服したい考えだ。
その上で、NTTデータGを完全子会社化する目的として、図1に示した2点を挙げた。(関連記事)

(図1)NTTデータGを完全子会社化する目的(出典:NTTとNTTデータGの会見資料)
端的に言うと、NTTデータGを完全子会社化することで、「グローバル事業を強化し、NTTグループの成長エンジンにしていく」といったところか。
一方、7月1日から刷新するCIについては、島田氏は背景として「NTTグループは1985年の民営化から40年が経過し、国内の固定電話からモバイル通信、海外を含めたITビジネスなど、今では多様なビジネスを展開している。40年前に設定された社名と実際の事業内容のギャップが大きく、特にグローバルでの企業認知向上の妨げになっている。また、競争の激しいグローバル市場では国内外統一のコンセプトのもと、NTTグループの技術力やケイパビリティーを分かりやすく示し、企業ブランドを高めることが急務と考えている。こうした背景から、グループのCIを刷新することにした」と説明した。
その上で、「NTTが国内だけでなく海外のお客さまにも通じている」ことから社名変更し、NTTグループの企業ブランドも図2のように統一することにした。(関連記事)
今回のNTTデータGと同様に、かつて公正な競争確保の観点から本体と分離していたNTTドコモも2020年に完全子会社となっており、これでNTTグループ内の親子上場はなくなり、ワンNTTの様相が強まる形となる。

(図2)NTTグループの企業ブランド統一(出典:NTTの会見資料)
今後、グローバルで確固たる存在感を発揮していくための経営判断にもの申すつもりはないが、これまでNTTドコモに関する本を2冊執筆し、NTTデータも長らく取材してきた筆者としては、印象強い両社の「活力」が削がれていくのではないかと懸念する。業界関係者の間では「結局、以前のマンモス企業に戻っただけ」との冷めた見方も少なくない。
これからの時代を生き抜く「活力みなぎる企業組織の在り方」とは――。今回のNTTグループの動きから、そんな疑問が浮かび上がった。