山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

知られざる中国のプログラミング言語「易語言」とは--マルウェア開発に悪用も

山谷剛史

2025-05-27 07:00

 「Mind」「なでしこ」「プロデル」といった日本語プログラミング言語が存在するように、「易語言(Easy Programming Language、EPL)」という、命令や変数に中国語を用いるオブジェクト指向プログラミング言語も存在する。中国語の「易」の発音は英語の「E」と同じであり、元々は「E語言」、つまり日本語で「E言語」と称されていた。

 中国は、海外製品に頼らず自立できる体制を築くため、これまで多様なインターネットサービスやハードウェアを開発・提供してきた。例えば、Googleの代わりに百度(バイドゥ)が存在感を高め、中国製CPUも米国製品に比べて性能は劣るものの、近年国内での普及が進んでいる。また、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンは、自社製のOSを含むソフトウェアとハードウェアを組み合わせ、中国で高い人気を得て復活を遂げた。開発言語である易語言も、このような背景から生まれたものである。

 易語言は、2000年に最初のリリース、2002年前後に正式バージョンが公開された古いプログラミング言語である。これは、英語が苦手なユーザーでもプログラミングを学びやすく、「Windows」アプリケーションの開発が可能であるという触れ込みで、主に中国国内において初心者向けの教育言語や小規模開発者向けの言語として普及した。その後、2012年までは15回のメジャーバージョンアップが実施され、データベース操作やグラフィカルインターフェースデザインモジュールが追加された。さらに、開発者によってプラグインが次々と提供された。

サンプルコード
サンプルコード
サンプルコード
サンプルコード

 現在、中国の情報端末市場ではスマートフォンが主流だが、その普及が顕著になり始めたのは2011年ごろである。2012年まで更新が続けられた易語言は、当時の技術的背景からWindowsのみに対応している。このため、2025年現在、AIサービスのような最新の技術トレンドに対応したサービス開発は困難である。また、公式サポートがほぼ提供されていないため、問題が発生しても迅速な対応ができない状況だ。開発者コミュニティーは規模が縮小しているものの、情報共有は続いている

 近年、中国でもローコード開発環境が整備されつつあり、易語言がWindows専用であることも相まって、市場における影響力は限定的である。しかし、PythonやC#といった英語ベースの言語に比べて機能は限られるものの、国内の特定の需要を満たすツールとして利用され続けている。

 易語言のコーディングは中国語の簡体字や繁体字で行われるが、英語に加えて日本語への対応もうたっている。特に日本語対応は、文字コードの差異を吸収しつつ、各単語を日本語と中国語で置き換えることで実現されているという。

日本語のイメージ
日本語のイメージ

 実際に易語言を試してみたい人もいるだろう。公式サイトではインストーラーパッケージが無料で提供されているが、ダウンロードには中国の電話番号、あるいはバイドゥや阿里巴巴(アリババ)のクラウドストレージアプリが必要となる。動画サービス「Bilibili」(ビリビリ)で「易語言」と検索して関連動画を視聴する方が、手軽に情報を得られるだろう。

 易語言に関する話題は、これで終わりではない。2025年4月、易語言に関するあるニュースがひっそりと報じられたのだ。セキュリティ会社の火絨セキュリティセンターによると、中国でインターネット検閲を回避するために用いられるプロクシツール「Clash」を装ったマルウェアが拡散しており、そのプログラムの作成に易語言が利用されていたという。

 同センターによると、このマルウェアはインストール時にコマンド&コントロール(C2)サーバーとの通信を行い、機密情報を窃取するための永続的なバックドアを仕込むという。ちなみに、2023年11月には、Clashや関連ツールが配布されていたGitHubリポジトリーから、それらのツールが削除されている。このように、不穏な出来事の背景にも、懐かしのプログラミング言語が関わっていたのである。

※参考:易語言の公式ページ(プレゼンテーション)

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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