「VHSの2025年問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。家庭用ビデオテープとして広く使われていたVHSだが、その後CD、DVD、Blu-rayなどのデジタル媒体に代替され、現在では物理的な記憶媒体に録画するのではなく、クラウドにアップロードして保管することも一般化したと言ってよいだろう。若い読者の皆さんは、そもそもビデオテープを見たことがない方も多いのではないであろうか。
いずれにせよ、VHSのビデオテープは、もはや日常的には利用されていない。そうであったとしても、冠婚葬祭などのライフイベントで撮影した昔の動画を久しぶりに見たいということはある。だが、これを見られなくなってしまうリスクがある――というのが、VHSの2025年問題である。
もともとは、国連教育科学文化機関(UNESCO)が2019年に発表した「Magnetic Tape Alert」から派生して「VHSの2025年問題」と言われるようになった。文字通り磁気テープに記録された画像や音声が、テープの劣化により再生不可能になってしまうことに対する注意喚起である。そして、たとえテープが正常であったとしても、再生機(ビデオデッキ)が老朽化し、それを修理するための保守部品がないことで、再生できない状況に陥ってしまう可能性があることを示唆している。そのタイミングが2025年頃に訪れるということだ。
さて、この問題もICT産業の話題として考えるべきところは多分にあるが、今回のメインのテーマではない。長い前振りになってしまったが、なぜ「Magnetic Tape Alert」が「VHSの2025年問題」と言われるのかが今回の本題である。そして、「磁気テープの2025年問題」や「ビデオテープの2025年問題」とは言わず、「VHSの2025年問題」なのである。
UNESCOのウェブサイトには、カセットテープやリールテープとともに、ベータテープ(以下ベータ)も掲載されている。
リールテープは一般消費者にはあまりなじみがなく、カセットテープは音楽専用※1であるため、「磁気テープ」を「ビデオテープ」で代表させたと推測できる。だが、なぜ「ビデオテープ」ではなく「VHS」なのだろうか。
※1:シャープの「MZ-80」をご存じの方もいるかもしれない。Z-80 CPUを用いた8ビットコンピューターで、なんとカセットテープでOSやプログラムをロードして動かすというアーキテクチャーであった。現在でも実働品は5万円程度で流通しているようである。