従業員の精神状態を調べる年1回のストレスチェックは、2015年から従業員50人以上の事業所に義務付けられていました。50人未満の企業はプライバシーへの配慮が難しく、作業の負担も重いことから特例で努力義務にとどまっていましたが、2025年5月8日、全ての企業に義務付けることを柱とした労働安全衛生法の改正案が衆議院本会議で可決され、3年以内に施行されます。
しかしながら現状でも、ストレスチェック後のフォローができていない実態をよくお聞きします。今回は、この点について、群馬県高崎市のカウンセリングルーム・エンカレッジ室長である公認心理師/臨床心理士の高井順子先生にお聞きしました。

ひとり情シス協会の清水博氏(左)と公認心理師/臨床心理士の高井順子先生
見過ごされる初期症状と企業の対応格差
ストレスチェック後のアクションの有無
清水:調査によると中堅中小企業より大企業がメンタル不調で休職するケースが多いですが、大企業が減少している傾向に対し、中堅中小企業は増加している傾向です。
高井:大企業ではストレスチェックの受検率は全体的に80%を超えてきています。ストレスチェックのフォローアップとして、カウンセラーや産業医などと安心して面接指導ができるような環境づくりをしている企業も増加しています。しかし、職場の人たちに高ストレス者と知られることを恐れて申し出ないケースは依然あります。
清水:中堅中小企業では、メンタルヘルス対策を実施しているのが4割程度です。しかも、毎年ストレスチェックをして、高ストレスとの結果があっても、その後の会社側のアクションが何もないと話される情報システム(情シス)部門の方は多いです。
高井:代表的なストレス関連疾患とされる「うつ病」や「適応障害」は、多くの場合、軽度の症状から始まり徐々に重症化していきます。初期段階では比較的軽度の集中力の低下、睡眠障害、疲労感、頭痛、食欲不振などの症状が表れますが、放置すると症状が進行し、慢性化すると治療に長期間を要するようになります。
しかし、初期段階では少しの変化だけなので「ちょっと疲れているな」などと軽く考えて、なかなかストレスチェック後の産業医面接やカウンセリングといった行動には移さないのも事実です。「話しても何も変わらない」という諦めに似た気持ちもあります。
一般的に病気というには症状が軽い、いわゆる「うつ状態」に陥りやすい人は、非常に真面目できちょうめんな人が多く、「自分が弱いから悩んでいる」と自分を責めて、つらさを表に出さないようにします。周囲の人に手助けを求めるのは申し訳ないからと我慢してしまうことも多いです。