実践的なメンタルケア戦略
相談先は?
清水:相談先はどのように探したらいいのでしょうか?
高井:地域の保健センターや精神保健福祉センターのウェブページなどまず見るとよいでしょう。内容も充実してきていますので、役立つ情報もあるでしょう。精神科や心療内科といった医療機関に相談し、連携している臨床心理士や公認心理師を紹介してもらうこともいいでしょう。心理カウンセラーを名乗る人は多いですが、その人がどのような資格を持ち、どんな現場で経験を積んできたのかを確認することが重要です。
心理専門職として従事するための必須資格は、前述した2資格が代表的です。臨床心理士は民間資格、公認心理師は国家資格という違いがあります。公認心理師は2018年に第1回資格試験が実施された新しい資格で、それ以前は臨床心理士が心理系専門資格の最難関とされていました。現在のところ、もっとも信頼できる専門家は、臨床心理士と公認心理師のダブルライセンスを保持している人とされています。
しかし、ストレスや不安を抱えている方が多いので、なかなかアポイントが取れないこともあります。医療機関になると、新規の患者さんを取らなかったり、取れても2カ月後だったりということは認識しておく必要があるでしょう。早期対応が望ましい理由の一つです。最近は開業している心理士・心理師も多いです。その中でも医療機関と提携している心理士・心理師であれば、医学的な治療が必要な方をスムーズに紹介できますので、ファーストコンタクトとしていいのではないでしょうか。

高井順子先生
清水:ITのソリューションを購入するときも平常時から調査したり、取得した情報を整理したりしておくことと同じですね。
高井:カウンセリングの方法はさまざまです。ご自身に合う方法を選ぶことです。私は、協働的アセスメントの手法を取り入れたアプローチをしています。一方的にカウンセラーが評価することはなく、相談に来られた方自身も自己理解のためのプロセスに積極的に参加することで、深い学びや主体性の向上につながります。
その結果、個人差はありますが、自己内省力が高くなることや、コミュニケーション能力や協調性が高まりチーム作業が円滑になります。また意外と見過ごされやすいのですが、カウンセラーとの相性も大切です。誰にも話したことのないようなプライベートなことを話し合いますので、「この人にだったら話してもいい」と思える、信頼できる人を選んでください。せっかく勇気を出してカウンセリングに行ったのに、話すことが外傷体験になってしまったらと思うと、とても怖いです。自戒の意味も込めて、カウンセラーには慎重に関係を作っていってほしいと思います。
気分をリフレッシュすること
清水:活躍しているひとり情シスは、意外とアクティブにアウトドアスポーツなどを好んでいることが多いです。
高井:やはりスポーツは、筋肉の緊張が解消されリラックス効果があります。気分転換や注意の転換によって、ストレスの原因から一時的に距離を置けるのと同時に、達成感や自己効力感が高まります。しかし、このようなことは分かっている人が多いと思います。そうは言っても、簡単にスポーツに着手することも容易ではありません。
簡単にできることの一つとして森林セラピー基地に行くことがあります。森林セラピー基地とは、森林の散策での森林浴の体感です。森林浴効果を専門家が医学的・科学的に計測、評価し、また関連施設などの自然・社会条件が一定の水準で整備されている地域のことで、林野庁が認定を始めたものです。全国に61地点あり、おおむね全国の都道府県をカバーしています。ストレスや血圧の減少が大学の論文で発表されています。
散策して疲れたら、座って目をつぶって瞑想(めいそう)のまね事でもいいと思います。グローバルのテック系企業がマインドフルネスを取り入れています。マインドフルネスは、「今現在において起こっている物事に注意を向ける能力を発達させるプロセス」とも言われています。情シスにとても有効なものです。気軽に始めてほしいです。

- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。