2025年の崖の年が来た
経済産業省が、「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開」を発表したのは、2018年9月なので、もう7年も前のことです。発表当時は、まだまだ先だと思いましたが、あっという間でした。このレポートには幾つかのポイントがありますが「ユーザー企業におけるIT人材の不足が深刻な課題である」「会社の中にシステムに精通した人やプロジェクトマネジメントできる人材が不足している」として2025年を迎えるに当たり人材不足を予測して警鐘を鳴らしていました。
私が日本で初めてひとり情シスの実態をレポートしたのは、2017年です。100人を超える中堅企業でも1人(兼任含む)で情シスを担当する会社が3割近くあると驚きをもって受け入れられました。しかし、その後数年は、ほとんど変わらないか、微増ということで、大きく変化することはありませんでした。
2020年が一つの転機
2020年に未曽有の新型コロナウイルス感染症が流行し、中堅企業の情シスはリモートワーク環境や事業継続計画(BCP)構築などに突然忙殺されました。事実、2021年の調査では6割近い企業が増員を検討している状態でした。また、働き方改革なども徐々に進み始めて、デジタル活用への注目も人材の積極採用への追い風でした。
2021年、2022年と着実に中堅企業のひとり情シスは減少し、2人以上体制へ幕開けの時代を感じるものでした。求人も積極的で早期に2人目の採用を計画している企業が多かったです。経験の浅い、中堅中小企業の情シス向けの講座である「ひとり情シス大学」には、現任と新任の担当者2人で受講する微笑ましい風景も珍しくありませんでした。いよいよ、ひとり情シスも終わりを迎えるのかと思いました。
元に戻ったひとり情シス比率
事実、2021年には27.1%になり、ひとり情シスの比率はそれまでにない水準まで下がりました。その後、2022年にも積極採用の中堅中小企業は依然多く26.2%までさらに下がりました。2023年も情シスの求人は継続して多く、2025年の今振り返ってみるとこの2023年がピークでした。しかし、比率は27.0%と少し増加しました。確かにこの頃、「採用が以前より難しくなった」と苦慮している話をよく聞くようになっていました。それでも積極的に求人している企業が多いので一時的なものだと感じていました。
しかし、2024年には、割合がさらに上がり27.8%になり、コロナ禍発生直後の数字を超えてしまいました。中堅中小企業も黙って見ていたわけではないのでしょうが、「ユーザー企業におけるIT人材の不足が深刻な課題である」という仮説は2025年の結果を前に証明されつつあります。昨今の求人情報は、IT関連職は積極的ですが、いわゆるベンダー側の求人が主であり、社内システムエンジニア(SE)関連は激減しています。
割合が戻ってしまったのは、「未経験や経験の浅い人材が戦力化しなかった」「増員した直後に、以前からいた情シスメンバーが退職してしまった」「1人から2人になったがケミストリーが合わなく退職してしまった」「適任の候補者の応募が来ない、明らかに人材不足が押し寄せている」などさまざまな理由が挙げられています。2025年も残り半年、「2025年の崖」の結論はどうなるのでしょうか?

- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。