富士フイルムBI、AIエージェントの戦略を発表--企業でのAI実装に注力

國谷武史 (編集部)

2025-05-27 16:57

 富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)は5月27日、記者向けの説明会を開き、AIエージェントに関する戦略を発表した。5つの中核AIエージェントによる業務変革ソリューションの提供を通じて、特に中小企業でのAI実装を支援するという。

 同社は、4月21日に東京大学発スタートアップのneoAI、5月15日にはAmazon Web Services(AWS)とそれぞれ協業を発表。業務特化型生成AIや、AIサービスの開発と提供、AIプラットフォーム構築に至るAI事業の各種施策を本格化させている。今回は、AI事業におけるAIエージェントに関する戦略を説明するものとなった。

富士フイルムビジネスイノベーション 取締役常務執行役員 CTOの鍋田敏之氏
富士フイルムビジネスイノベーション 取締役常務執行役員 CTOの鍋田敏之氏

 説明会に登壇した取締役常務執行役員 CTO(最高技術責任者)の鍋田敏之氏は、同社がAI事業を展開する背景として、数十年にわたる富士フイルムグループでの要素技術開発の蓄積があり、特に2015年以降は画像や言語処理、マテリアルインフォマティクスなどの技術開発を推進してきたと述べた。2018年には、医療分野でAIブランド「REiLI」を立ち上げ、製品やサービスへのAI実装を迅速に進めたことで事業の成長ペースも加速したという。ここで蓄積した経験や知見をベースに、富士フイルムBIが得意とするビジネスやオフィス、画像でのソリューションを組み合わせ、2025年秋からAIエージェントの戦略を本格的に展開していく。

 鍋田氏によれば、REiLIは富士フイルムグループの技術資産でもあり、富士フイルムBIでは、「認識・構造化」「効率化」「提案・付加価値化」「機器最適化」「画質・質感表現」の5つを中核AIエージェントに位置付ける。同氏は各種調査を引用し、国内企業の大多数を占める中小企業でのAI導入が大企業に比べて遅れ、企業間の情報格差が加速、拡大している課題があると指摘。情報格差の根本的原因が非構造化データにあり、構造化データとしての活用に手間がかかるため、中核AIエージェントで課題解決を目指すという。

 中核AIエージェントのうち、まず認識・構造化エージェントでは、例えば、さまざまな形式の請求書について、レイアウトの認識、文字や固有表現の判定、意味の理解や機密情報の判定、それらの突き合わせといった処理をAIエージェントが実行し、請求書情報の取り込みを効率化できる。

 効率化エージェントでは、例えば、受発注業務においてさまざまな注文情報の認識や理解、在庫データベースの確認、発注計画の立案、承認などをAIが代行する。提案・付加価値化エージェントでは、企業内に蓄積されている営業提案履歴などの独自データと、オープンデータを組み合わせ、その企業ならでは価値提案型のデータ活用を実現するという。

提案・付加価値化エージェントを適用した同社内での営業提案作成ケース
提案・付加価値化エージェントを適用した同社内での営業提案作成ケース

 機器最適化エージェントや画質・質感表現エージェントは、複合機ビジネスを手掛ける同社の特徴を生かしたもので、機器最適化エージェントでは高度な数理モデルを活用して、印刷ジョブや緊急性などの状況に応じた最適な複合機などの稼働スケジュールをAIが提案する。画質・質感表現エージェントでは、これまで熟練技術者に依存していた商業印刷の出力におけるデザインに適切な色や質感などの調整をAIが行い、「誰でも使いこなせる印刷機」を実現するという。

 鍋田氏は、このようなAIエージェントの戦略を展開する上で「オープン&クローズド」のアプローチを取るとも説明。オープンは、neoAIやAWSのようなパートナーとの連携でソリューションを進化させていく。クローズドは、富士フイルムグループの強みを発揮する領域だといい、非構造化データを活用可能な構造化データにする「知」になるとした。

 また戦略の推進体制も整備し、2024年10月には鍋田氏が所管する「CTO戦略室」を設立。AI技術の開発や戦略から商品企画・開発・パートナー商材連携、商品やサービスの提案・販売、顧客での実装までを行えるようにする。充実した教育プログラムや社内専門家を認定する「AIマエストロ」制度を設けるなど人材育成体制も構築する。

AIエージェントの戦略の全体像
AIエージェントの戦略の全体像

 こうした取り組みで同社は、2030年度の目標売上高1兆3000億円以上のうち、7000億円以上をAIにまつわるソリューションやサービス関連で達成することにしている。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]