「SAP Business Data Cloud」はAI時代のデータ基盤--SAP幹部が語るその狙い

末岡洋子

2025-05-29 07:00

 SAPはAI時代に向けてデータ戦略を刷新している。そのかぎを握るのは、2月に発表された「SAP Business Data Cloud(BDC)」である。今後は、開発基盤とデータ基盤の2つの柱で、主力のアプリケーションを支える方針だ。

 SAPが5月に米フロリダ州オーランドで開催した「SAP Sapphire 2025」で、SAP Business AI担当最高収益責任者(CRO)のJan Bungert氏に、BDCの狙いやDatabricksとの関係などについて話を聞いた。

--SAP Business AI担当CROは新しい役職と聞きました。この役職が設置された背景や担当する業務内容について教えてください。

 この役職は2024年4月に新設された。AI市場が急速に拡大し、企業がそこから大きな価値を得ていることを受け、専門領域として注力する必要があると判断したためだ。

 この1年間で、SAPはBDCを立ち上げた。BDCは新しいパラダイムであり、AIの基盤になる。データとAIは密接に関連しているため、1つのリーダーシップの下で統合することが合理的だと判断され、私がBDCも担当することになった。

 この統合に伴い、開発プラットフォームの「SAP Business Technology Platform(BTP)」との分離も行った。BTPは引き続き「SAP Build」などの開発製品や統合製品を含む領域として残り、分析・データ製品は全てBDC領域に移管された。つまり、BDCとAI、BTPという2つの独立した領域で展開している。

--BDCは新しいパラダイムとのことですが、開発の背景にある顧客のニーズや課題を教えてください。

 BDCは、SAPの次世代データ・分析製品であり、従来の「SAP Business Warehouse(BW)」システムの後継という位置付けになる。現在、世界中に約3万のBWシステムが稼働しているが、これらを将来に向けて進化させる戦略が必要だった。

 BDCを開発したもう1つの重要な背景には、顧客が直面していた根本的な課題がある。ビジネスでAIを効果的に活用するためには、完璧なデータが不可欠になる。AIにとってデータは極めて重要だが、特にビジネス用途のAIにおいては、高品質なデータに基づいてシステムを構築しなければならない。なぜなら、たとえ10回に1回でもエラーが発生すれば、そのシステムは信頼性に欠けると評価されてしまうからだ。実際、この1~2年間、多くの企業がさまざまなデータソースからデータを抽出し、AIの検証を試みたが、高品質なデータレイヤーの構築が難しく、本格的な実用化にはなかなか至らなかった。

 従来、顧客はSAPシステムから直接テーブルを抽出し、データレイクに移行していた。しかし、この方法では、ビジネス上の意味合いが途中で失われてしまうという問題があった。単にテーブルだけでは、どの項目がどのビジネス上の対象に関連しているのかが不明瞭になるためである。そのため、SAPのシステム外であらためてビジネス上の意味合いを再構築する必要が生じていた。これは非常にコストがかかる上に非効率であり、エラーも発生しやすい状況だった。

 BDCはそれを解決するものであり、高品質なデータを利用してAIの構築を支援する。データプロダクト(後述)を結合し、データプロダクト間の関係を理解する「Knowledge Graph」も搭載している。AIを学習させ、ビジネスデータに基づいた判断ができるようにするための完璧な基盤となる。その結果、SAPのデータだけでなく、SAP以外のデータからもリアルタイムに価値を生み出せるようになる。

--あらためて、SAPのポートフォリオにおけるBDCの役割や特徴を教えてください。

 BDCのポイントは5つある。1つ目は、「SAP Analytics Cloud」と「SAP DataSphere」をBDCに統合したことだ。顧客はこれまで通り、これら製品を改良されたアーキテクチャーの下で利用できる。2つ目として、既存のBWシステムをリフト&シフトでBDCの下に移行できるようにした。これにより、顧客は既存のBWをクラウド環境でデータソースとして活用し、段階的に新しいデータアーキテクチャーに移行できる。

 3つ目は、BDCが「SAP S/4HANA」「SAP SuccessFactors」「SAP Ariba」といった全てのSAPアプリケーションから、業務の文脈と意味を正確に反映したデータプロダクトを提供する点である。これらのデータは完全に整理されており、質の高いエンドツーエンドのデータ基盤を構築する。

 4つ目として、レイクハウステクノロジーを導入し、オブジェクトストアという仕組みを構築した。これは大容量データを低コストで保存できる仕組みであり、総所有コスト(TCO)の課題解決を支援する。5つ目が「Delta Sharing」の実装であり、これによりデータを効率的に共有できるようにした。

SAP Business Data Cloud(BDC)の概要
SAP Business Data Cloud(BDC)の概要

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