「Linuxカーネル6.15」がリリース--NVIDIA GPU用のRust製ドライバーなど追加

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部

2025-05-30 08:24

 Linus Torvalds氏は米国時間5月25日、「Linuxカーネル6.15」(Linux 6.15)の安定版リリースを正式に発表した。同氏によると、「土壇場でのバグ報告により、1つの新機能が直前で無効化された」ため、リリースが数時間遅れたという。

 このバージョンで特に注目すべきは、「Rust」ベースのドライバーが初めてメインラインカーネルに搭載された点だ。これは、LinuxコミュニティーのRustファンから長い間待ち望まれていたことだ。

 これは「NOVA」と名付けられた「Direct Rendering Manager(DRM)」ドライバーで、NVIDIAの次世代オープンソースグラフィックスハードウェアを強化するものになる。「Turing」アーキテクチャーをベースにした「RTX 2000」シリーズとそれ以降のGPUを対象としている。NOVAは、サードパーティー製でオープンソースの「nouveau」ドライバーに取って代わることを目指している。

 これは、NVIDIAが過去に用いてきたプロプライエタリーな手法に対し、Linuxとオープンソースソフトウェアが最終的に優位に立ったことを示している。10年以上前、Torvalds氏は同社を「ハードウェアメーカーの中で最悪のトラブルメーカーの1つであり、NVIDIAが『Android』市場に多数のチップを売り込もうとしているのは、実に嘆かわしいことだ」と公然と批判したのは有名である。

 しかし、NVIDIAはそれ以来、Linuxと対立するよりも協力する方がはるかに多くの利益をもたらすことに気づいた。現在、AI産業が同社製チップ上で動作するLinuxに大きく依存しているため、同社はメモリー安全性の高いRust言語とオープンソースの両方を受け入れている。近い将来、さらなるRustベースのカーネルコンポーネントが登場することが予想される。

 Linux 6.15は、特にファイル操作において、優れたパフォーマンス向上も実現している。USBフラッシュドライブやSDカードで一般的に使用されているexFATファイルシステムは、最適化されたクラスター廃棄アルゴリズム(Cluster-Discarding Algorithms)の恩恵を受けている。この変更は目覚ましいパフォーマンス向上をもたらした。例えば、ジャーナリストのMichael Larabel氏によると、Linux 6.15では80GBのテストファイルをわずか1.6秒で削除でき、以前のバージョンの4分以上と比較して大幅な短縮となっている。これは、クラスターを個別に削除するのではなく、連続するクラスター廃棄をバッチ処理することで実現されている。

 「openSUSE」や「Fedora」といったLinuxディストリビューションで採用が進むBtrfsファイルシステムにもアップデートが適用されている。具体的には、より高速な可逆圧縮アルゴリズムであるzstdの圧縮レベルがサポートされ、ダイレクトI/O処理も改善された。また、チェックサムを必要とするファイルは、必要に応じてバッファリングされた書き込みにフォールバックするようになり、これにより仮想マシン環境でのエラーが削減されている。

 ネットワークに関しては、io_uringを介した新しいゼロコピー受信(zcrx)メカニズムが改善点として挙げられる。これにより、ネットワークパケットデータをユーザー空間のRAMへ直接移動させられるようになった。加えて、IPv4の再試行タイムアウトをより細かく制御できる新しいTCPソケットオプションも追加されている。

 メモリー管理機能も向上し、デバイスメモリーの使用状況をより正確に把握するための新しい「dmem」メモリーアカウンティングcgroupと、特にhuge pagesを使う処理でメモリーの断片化を防ぐのに役立つdefrag_mode sysctlが導入された。

 Linux 6.15では、ハードウェアサポートが拡充されており、具体的にはAppleの「Touch Bar」専用ドライバーや、ACPIプラットフォームプロファイルとバッテリー管理に対応したサムスンの「Galaxy Book」用ドライバーなどが追加された。Touch Barを搭載した製品は既に何年も発表されていないが、コミュニティーには依然として愛用者がいる。

 一方で、Intelの「i486」ベースのPCを愛用する人々には、悲しい知らせがある。Linux 6.15は、初期の「Pentium(586)」よりも前のx86チップのサポートを正式に終了した。「Pentium Pro」など一部の32ビットLinuxハードウェアは依然としてサポートされているものの、32ビットLinuxのサポートが長期にわたって継続する可能性は低いとみられる。もし旧式のハードウェアを使用している場合は、古いLinuxカーネルを利用する手もある。より新しいものが必要であれば、「i386」チップも引き続きサポートする「NetBSD/i386」という選択肢もある。

 新しいハードウェアに関して、Linux 6.15はAppleの「M1」チップとNVIDIA製GPUのサポートを向上させた。さらに、ブロック層にハードウェアで直接処理されるインライン暗号化キーが導入された。これにより、ソフトウェアの負荷を軽減しつつ、透過的なディスク暗号化が可能になっている。

 今回のリリースは、Linuxカーネル開発者にとって多忙を極めるものだった。合計1万4612もの変更セットが含まれており、これは2024年初頭の「Linuxカーネル6.7」以来の忙しさとなった。

 今後の見通しとしては、さらなるカーネル変更が既に進行中である。Torvalds氏は、「明日(米国時間5月26日)はメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)だが、USPS(米国郵便公社)のモットー『雪も雨も暑さも夜の闇も』が示すように、メモリアルデーもマージウィンドウを止めることはない」と述べている。ただし、同氏自身も「時折、雪がマージウィンドウを止めることはあるが、それは一時的なものだ」と補足している。

提供:panida wijitpanya/Getty Images
提供:panida wijitpanya/Getty Images

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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