クボタは、AIを活用して、水道管路の破損事故や断水を防ぐ新たなソリューションを発表した。自然災害での管路の破損を予測する「ハザード被害AI予測システム」と、管路が破損した際の断水を予測する「断水エリア予測システム」を開発。5月から、全国の水道事業体を対象にサービス提供を開始した。
クボタおよび同社の子会社である管総研が、水道事業体から業務を受託し、システムを利用した診断、予測結果を提供する。平常時および地震時の断水による影響度を算出し、断水リスクを最小化するための更新工事の優先順位付けが可能になり、水に不自由のない市民生活の実現に貢献できるとしている。
また、これらのシステムを組み合わせることで、「管路更新計画策定支援システム」としての提供も行い、管路更新や耐震化の判断基準を提供するとともに、住民が生活している場所の断水リスクを見える化し、「断水のハザードマップ」を作ることが可能になるという。

管路更新計画策定支援システム
なお、これらのソリューションは、クボタが構築した管路総合プラットフォーム「KSIS PIPEFUL(ケーサスパイプフル)」で稼働する。
クボタは、創業3年後の1893年から鋳鉄管の研究、製造に着手し、1900年には、日本で初めて水道管の量産化を成功させた歴史を持つ。2024年度におけるパイプシステム事業の売上高は1376億円。独自の技術を活用することで、地震時でも水道管路の抜けや水漏れが発生しにくい耐震管などを製品化している。
クボタ 常務執行役員 パイプシステム事業部長の市川孝氏は、「クボタの創業者である久保田権四郎は、コレラなどの水系伝染病から国の人々を守るため、水道用鋳鉄管の製造にチャレンジした。今では、いつでも、どこでも、蛇口をひねれば、おいしく、安全で、安心な水が飲める環境が整っている」としながら、「日本の水道管路は、約74万kmもの総延長があるが、そのうち法定耐用年数である40年を超えて使用されている水道管は全体の23%に達している。昨今では、水道管の破損事故が増加しており、埼玉県八潮市のような道路陥没といった事故にもつながる危険性がある。また、能登半島地震でも、管路が被害を受け、広範囲に渡り、長期間の断水が発生した。こうした事態が生じる前に対策を講じる必要がある。だが、老朽化した水道管の更新と耐震化は急務の課題でありながらも、多くの水道事業体は財政難や担い手不足により、管路の更新が進められていない。今回のシステムを通じて、限られたリソースの中で、少しでも優先度の高い管路から更新を進めることができる」などとした。

クボタ 常務執行役員 パイプシステム事業部長の市川孝氏
水道管の破損事故が生じる2大要因は、老朽化と自然災害である。しかし、水道管の更新率はわずか0.64%にとどまり、全ての管を更新するのに150年を要すると試算。また、耐震管の敷設率は約20%であり、地盤を勘案した耐震適合率でも42%にとどまる。
「水道管は埋設されているので、どこの管路が老朽化しているのかが分からない、自然災害によってどこの管路が破損するのかが分からない、管路の破損事故が発生したときに、どこが断水するのかが分からないという課題がある。これらの課題を解決するために、新たなシステムを開発し、地面を掘らずに破損リスクへの対応が図れる」と、今回のソリューションのメリットを訴求する。
さらに、水道事業者はピーク時に比べて約35%減少していることを指摘。新たなソリューションを活用することで、設計や施工に関わる労力を削減し、現場での作業時間を増やし、経営基盤を強化できるとも述べた。
過去データを機械学習させ、AI予測モデルを構築
新たに開発した、ハザード被害AI予測システムは、地震など自然災害時に被災する管路を特定し、被害の度合いを高精度に予測できる。従来手法では、250m四方で区切ったメッシュごとで推定しており、メッシュ内では被害率が低い管路も含んで特定していた。新技術では管路単位でピンポイントに被害率を算出し、より効果的な更新計画の作成が可能になる。
また、被害度合いの予測において、地盤境界や管路形態といった新たな要素を追加。クボタが蓄積した過去の大規模地震時における管路被害調査データや、地震時の管路の挙動実験データを機械学習させ、AI予測モデルを構築。従来手法に比べて、予測精度を3倍以上に向上させている。「クボタの長年のデータ蓄積があったからこそ、実現できた」と胸を張る。
さらに、ハザードマップなど自治体が整備したデータを活用し、従来手法ではカバーできていなかった洪水や土砂崩れによる管路被害についても予測できるようになったという。
断水エリア予測システムは、管路が破損した際の断水戸数を予測することで、平常時と地震時のそれぞれにおいて、「断水影響度」を算出し、それを基に、断水の影響を最小限に抑制するための更新優先順位を提案する。
断水影響度は、今回の発表にあわせて、クボタが提案したもので、水が使えなくなることによる不自由さを数値化。管路の破損する確率×破損時の断水戸数×復旧日数をベースに算定し、これを基に、断水影響度が大きい管路から更新や耐震化を図ることができる。
「水道管路は網目のように複雑に入り組んでいるため、破損箇所が予測できても、その破損によって、どのエリアが断水するかの把握が困難であり、同時に破損による市民生活への影響度が把握しにくいという課題があった。今回の技術では、水理計算と管網解析を用いて分析。水道管一つひとつを流れる水の向きを正しく把握し、それを基に、破損位置の違いによって、断水戸数をシミュレーションすることができる。また、断水影響度に着目することで、管路更新の優先順位付けを行うことができ、断水被害を抑えるための効率的な更新計画の策定が可能になる」という。
シミュレーションの結果から、管路の破損場所がわずかに違うだけで、断水戸数が3100戸になったり、10戸だけの断水にとどまったりするといったことも分かる。
2021年4月からサービスを提供し、既に50以上の水道事業体への導入実績を持つ管路老朽度予測の「老朽度AI評価システム」と組み合わせることで、平常時には、老朽化によって破損するリスクを予測することができる。
また、これらのソリューションによって、定量的なデータを示すことができるため、生活者や議会などに、管路更新の効果を分かりやすく説明することが可能であり、管路更新の予算規模の増減による断水リスクの変化を示すことで、適切な予算や更新率を検討しやすくなるメリットがあると述べた。
また、「自動工区割システム」を組み合わせて利用することで、各年度の事業実施計画案の策定支援が可能になり、多くの労力を掛けていた工事区間の設定作業(工区割り)を効率化。工事区間ごとの更新優先順位付けを行い、実際の管路更新に近い条件で更新の効果を評価できる。
今後は、水道事業体との共同研究などを進め、管路の診断から管路の断水リスクを評価。工事発注区間の設定までの一連の業務を支援する技術のさらなる精度向上も図る。また、将来的には、管路の更新計画策定や維持管理を支援するシステム群のデータを、クボタスマート水道工事システム「PIPROFESSOR」とのデータ連携により、更新工事の設計から施工業務の効率化までを支援。水道管路全体の課題解決に貢献するデジタルトランスフォーメーション(DX)システムの構築を目指すという。
「パイプシステム事業は、製品中心の事業から、ソリューションを提供する事業に変えていく」と、新たな方針を示した。