NTT西日本は、地域の自治体や民間企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する拠点として大阪、 名古屋、福岡、広島の4カ所に「LINKSPARK」を展開している。今回は拠点の一つであるLINKSPARK OSAKAを訪れ、LINKSPARK開設の目的や詳細な取り組みを聞いた。

LINKSPARKを説明してくれた、左からNTT西日本 エンタープライズビジネス営業部 デジタルビジネス推進部門 デジタルデータビジネス担当 スペシャリスト(データサイエンティスト)の酒井佑太氏、同担当 担当部長の櫛山和也氏、同担当 データサイエンティストの岡野宏佑氏、同担当 主査の宇野晴菜氏
社会や経済が急速に変化する中で、企業の課題はより複雑になっており、問題の改善だけでなく、全体を見据えたスピード感のある変革が求められている状況にある。企業はデジタルを活用してDXを進め、変化に柔軟に対応できるようになることが今後重要になってくる。
一方で、国内ではレガシーシステムの存在がデータ活用やシームレスなシステム間の連携の課題となっている。特に企業は既存システムの維持・管理に9割の予算を割いており、新しいシステムへの投資は1割程度にとどまっている。また、基幹系システムなどの刷新に必要なIT人材が、約43万人も不足しているという現状がある。
このような状況の中で、国内の約6割の企業はDXの検討を進めており、特定業務のデジタル化(デジタイゼーション)においては徐々に成果が出始めている。しかし、推進に当たっては「デジタル人材の不足」「DXで取り組むべきテーマ設定」「ICT環境準備」といった課題を抱えている企業が少なくないという。

DX推進における課題(経産省レポートを元にNTT西日本が作成)
こうした状況を踏まえ、同社は2019年8月、大阪にLINKSPARKを開設。情報ネットワークや電話などを中心にビジネスを展開してきた同社だったが、システムエンジニア(SE)や営業担当者が地域の企業に出向いた際にDXに関する相談が増えていたこともあり、ビジネス拡大も視野に入れ、LINKSPARKを立ち上げたという。
2025年3月末時点で、LINKSPARKの全施設を合わせて来場者数は884社、共創案件数は2378件にも上る。また、NTT西日本のデジタル人材認定者はのべ1万176人おり、そのうちLINKSPARKに所属するデジタル人材は51人いる。
LINKSPARK OSAKAの案件は、自治体が3割、民間企業が7割の状況だという。名古屋は製造業、広島は観光業、福岡は 自治体など、各拠点で多少業種の違いはあるが、業種ごとに抱えている課題は似たものが多いため、ベストプラクティスを標準化して横展開することもある。
LINKSPARKは、「LINK+SPARK」と「LINKS+PARK」の2つのコンセプトがある。前者では、顧客のビジネスゴール達成のため、DXを推進するために何をすべきかを現場と共に考える。また後者では、特に地域の自治体のDXやスマートシティーにおいては産官学の連携が必要になるため、さまざまなステークホルダーと共に地域の新たな価値創出や発展をサポートする。

LINKSPARKに展示されている技術は各拠点で少し異なり、ニーズの多そうなデジタル技術を置いているという。この「AI Port」は、AI要素技術を模したさまざまなブロックを組み合わせることで、AIサービスの一例を体験できる
LINKSPARKでは、企業や自治体のDXを一気通貫で支援する。「課題の洗い出し」「課題設定・検証」「実装」の流れでDX支援を行うが、櫛山氏は「課題の洗い出しからテーマ設定が最も重要」だという。企業や業界情報のインプットやワークショップを通してテーマを決める。次に重要になるのは概念実証(PoC)になる。DXは抜本的な業務改革となり、新しい取り組みが増えることから、どの程度投資対効果が得られるか、既存の業務に対する影響を確認するために必ずPoCを行うという。
課題となるDXテーマの設定には、「デジタル技術」と「デザイン思考」を組み合わせて、新規事業の創出や事業転換/事業継続、売上拡大などの顧客のビジネスゴール達成に向けたテーマを設定する。LINKSPARKに所属するメンバーは、課題の洗い出しやテーマ設定が得意で、実装の部分は同社のSEと共に行うため、一気通貫での支援が強みになるとしている。

DX支援の流れとLINKSPARKが保有するアセット
一方で、企業側が既に課題を設定しておりその解決策を共に検証するケースも多くあるという。櫛山氏は、「このケースは部分最適になってしまう場合もあるので、やはり全体を見ながら優先順位を決めてDXを進めたい」と強調する。
多くの企業が1~1年半で課題の洗い出しから実装を行うが、5年程度のワークロードを描いて各部署のDXを一つずつ行うケースもある。とある製造業では、ICT導入の5年間のロードマップを策定し、業務の課題の洗い出しやデータの収集、DXマインドの醸成など基礎的な部分から始め、徐々に業務のデジタル化や業務プロセスの高度化を進めている。複数の工場を持っているため、一部の工場で成功した事例を横展開し、全社でのDXを推し進めているという。
LINKSPARKの今後の展開としては、生成AIのビジネス拡大に取り組みたいとしている。NTT西日本グループであるNTTスマートコネクトの「生成AIサービス」やNTTの生成AI「tsuzumi」を提供しており、既にtsuzumiを業務に活用した実証実験を行う自治体もある。宇野氏は、「これまでは、生成AIを試験的に導入するケースが多かったが、これからは本格的な適用や業務の改革への導入が増えると考えている。われわれはその伴走支援をしていきたい」と話す。
また、LINKSPARKを立ち上げた際に、2025年度にNTT西日本としてDXビジネスで100億円規模のビジネスを目指すことを発表している。今年度はその重要業績評価指標(KPI)を達成することが最優先になるだろうと話した。

LINKSPARKはリラックスできる環境にするため、入り口でスリッパに履き替える。いつもと違うシチュエーションで議論をすることで、柔軟なアイデアが浮かびそうだ