有力中堅システムインテグレーター(SIer)の2024年度業績が出そろった。14社の合計の成長率は、売上高が前期比7.5%増、営業利益が同10.3%増で、売り上げも利益も2023年度に比べて成長率が2.7ポイントのマイナスだった。一方、営業利益率は0.3ポイント改善し、11.2%になる。生産性の向上、コスト削減、付加価値の高いビジネスへのシフトなどによるもので、1人当たりの営業利益が前期の7万円アップの平均237万円になり、大手並の水準に達する。各社の決算資料などからまとめた。

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売り上げを2桁伸ばしたのは、フューチャー(前期比17.8%増)とTDCソフト(同11.9%増)、クレスコ(同11.4%増)、IDホールディングス(同11.0%増)の4社。フューチャーは次世代バンキングシステムなど大型プロジェクトが順調に推移したほか、リヴァンプなど傘下に入った企業が貢献する。TDCソフトは高付加価値SIサービスなどが大きく伸び、クレスコは主要顧客を中心にIT投資需要が旺盛だったという。
営業利益を2桁伸ばしたのは8社で、うち20%を超す成長は、JBCCホールディングス(前期比39.2%増)、ID HD(同36.5%増)、TDCソフト(同25.3%増)、アイネス(同22.9%増)の4社になる。JBCC HDは、クラウドやセキュリティなどへの事業構造変革を推進し、収益力を向上させる。ID HDはシステム運用などの粗利益の改善や販売管理費を削減した。TDCソフトは付加価値の高いビジネスへのシフトなどによるものだ。
一方、減益は電算システムホールディングス(同41.7%減)とアイネット(同8.5%減)の2社。電算システムHDは情報サービスにおける原価の増加、不採算案件の発生などが要因となる。アイネットはクラウドサービスのライセンス費用の上昇、システム投資や設備投資の償却負担増などによるという。
営業利益率は、フューチャーの21.0%が際立つ。次いで、NSDの15.6%、コムチュアの11.9%、シーイーシーの11.9%、DTSの11.5%などが続く。これは、サービスなどのストックビジネスが利益に大きく影響している。加えて、1人当たりの営業利益を見ると、フューチャーの491万円が抜きんでている。これは、一部の大手SIerを上回る結果だ。300万円を超えるのは、NSDの378万円と、JBCC HDの305万円の2社だけ。一方、200万円を割り込んだのが、クレスコ、CACホールディングス、TDCソフト、アイネット、ID HD、アイエックス・ナレッジの6社だ。中でもCAC HDは100万円を割っている。海外のシステム販売会社によるもので、日本だけを見ると約260万円になる。
14社の2025年度計画は、売上高が前期比7.2%増、営業利益が同8.1%増と1桁成長を見込んでいる。NSDは「デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応や生産性向上をはじめ、基幹システムの刷新など引き続きITへの旺盛な投資が予想され、受注環境は堅調に推移すると見込まれる」としている。また、クレスコは「生産性向上を目的とした企業のDX投資は継続する」など、DX関連の需要を期待する。
売り上げの2桁成長を計画するのは、電算システムHD、CAC HD、コムチュア、営業利益の2桁増を見込むのは、JBCC HD、電算システムHD、アイネス、ID HDになる。JBCC HDはクラウドやセキュリティなどのストックビジネスの構成比率を2024年度の46%から2025年度に53%に高める。
電算システムHDは、情報サービスの成長によって、10%超えの売り上げ増を計画している。シ―イーシ―は「自動車業界向けを中心にICT投資は活発に継続する」などとし、増収増益を計画。アイネスも「公共分野の自治体システム標準化対応や民間分野の選択と集中が加速する」とし、増収増益を計画している。
TDCソフトは「事業環境は引き続き堅調に推移する」とし、前期比8.1%の増収を見込む。コムチュアは「企業のデジタル化が進み今後もデジタル関連投資の拡大が見込まれる。また、ユーザー企業では内製化に向けたチーム形成とデジタル人材の育成が進み、SIerへの支援業務の委託が増加する」とし、10%超の増収を計画している。
営業利益率、1人当たりの営業利益も大手並みになりつつあるが、大手SI会erへの依存度が高かったり、高付加価値の高いビジネスへの転換に遅れていたりもする。中堅SIerにも独自サービスを一日も早く創り出すことが求められる。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。