筆者の所属するPwCコンサルティングが発表した「2024年DX意識調査―IT モダナイゼーション編」の分析結果からは、「DXの成果が期待通り、もしくはそれ以上」と回答した企業が41%にとどまることが分かった。これは、顧客動向、法規制、地政学リスク、新技術動向など企業を取り巻くビジネス環境の変化が日を追うごとに加速する一方で、ITシステムがこれらの変化に迅速に対応できていないことに起因していると想定する。
従来のウォーターフォール型の開発では、プロジェクト開始時に策定した計画に基づいてプロジェクトを実施することが求められるが、現実にはプロジェクト中にさまざまなビジネス環境の変化が起きてしまう。こうした変化の激しい状況においては、変更を前提としたアジャイル開発の活用が企業に求められる。
実際にPwCコンサルティングの調査では、「DXの成果が期待通りもしくはそれ以上」と回答した企業のうち、90%がアジャイル開発を活用しており、その効果は「不要な開発の削減」「変更要求への柔軟な対応」「サービス提供開始時期の早期化」が上位の回答となった。この結果から、ビジネスが激変する環境におけるアジャイル開発の有用性を確認できる。そこで本稿は、どのようにアジャイル開発を組織に浸透させ、ITシステムのアジリティーを向上させるか、そして、それらを阻害する要因への対処方法に関して解説する。

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ITシステムのアジリティー向上を阻む要因とその対応策
まず、アジャイル開発の採用により「開発が早くなる」「組織の意思決定が早くなる」と期待していたが、実際にはそこまでの効果を感じられないと悲嘆する声がある。以下では、その典型的な要因と対応策について2つ紹介する。
なお本稿では、アジャイルを「マインドセット」、スクラムを「アジャイル開発の手法(フレームワーク)」と区別して扱う。