多くのビジネスリーダーがAI関連の取り組みに対して試験的導入や資金投入を進めていることが示されており、バイオ医薬品の大手企業であるBoehringer Ingelheimも、人生に大きな影響を与える可能性を秘めた最先端技術への投資に力を入れている。
同社の従業員5万5000人は、依然として十分な治療法が存在しない医療分野において、人々の生活の質を向上させる革新的な治療の開発に取り組んでおり、AIとデータはその取り組みの中でますます重要な役割を果たしている。
グローバル最高情報責任者(CIO)のMarkus Schummelfeder氏は米ZDNETの取材に対し、先端技術の導入が組織の変革とともに進められることで、新たな可能性が大きく広がると語り、「AIやビッグデータを活用できる環境、そしてそれらを使いこなせるスキルこそが、真のゲームチェンジャーである」と述べている。
それでは、ビジネスリーダーはAI時代における組織変革をどのように進めていくべきなのか。Schummelfeder氏と、同僚のOliver Sluke氏(IT研究・開発・医療部門責任者)は、AIを活用したビジネス変革を成功に導くための4つの実践的な指針を提示した。
1. データ環境の構築
多くのデジタルリーダーが一致して認めているのは、テクノロジーの導入や実験を始める前に、まずデータが適切に管理・整理され、必要なときにすぐにアクセスできる状態にしておくことが不可欠だという点だ。
Boehringerでは、2022年から「Dataland」と呼ばれるデータエコシステムを導入している。Schummelfeder氏によれば、このエコシステムは企業全体のデータを集約し、専門家が安全かつ確実にシミュレーションやデータ分析を進められる環境を提供しているという。
「ユースケースや分析を進めるには、効果的なデータ環境が不可欠であり、われわれはその基盤を築き上げた。」
さらに同氏は、このエコシステムは単にデータを保存するだけのものではなく、はるかに多くの機能を備えていると説明している。Datalandには、複数の重要なデータ管理システムおよび分析システムも組み込まれている。
「『Snowflake』や『Collibra』をはじめとする多数のツールがこの基盤上に構築されており、データのカタログ化や活用を可能にし、さらに情報をAmazon Web Services(AWS)へと連携している」
Sluke氏は、Boehringerのデータ環境におけるもう1つの重要な構成要素として、「Veeva Development Cloud」を基盤とする「One Medicine Platform」を挙げている。これは、データと業務プロセスを統合することで、同社の製品開発の効率化を実現するものである。
「かつてはVeevaに関連する業務を、55もの個別かつ小規模なシステムで行っていた。想像のとおり、それらは非常に分断されており、統一されたデータモデルにはなっていなかった」
VeevaプラットフォームはDatalandと連携しており、同氏が「最先端のテクノロジースタック」と表現する統合基盤を構成している。
その結果として、ITに対する統一されたアプローチが実現されるとともに、人生を変える可能性を持つ研究に向けた統合的な洞察が得られている。
「この変革によってITと医療の領域が統合された。この変化は単なるツールの置き換えにとどまらず、働き方そのものの変革を意味している」(同氏)
2. AIプラットフォームの構築
Boehringerは、Datalandに統合された企業データを活用し、このプラットフォーム上でAIの可能性を探求し、実際の業務に応用している。
Schummelfeder氏は、「データ環境の上に各種ツールが構築されている。機械学習やAIに関するあらゆる課題に対応するための技術スタックが整備されており、今後はテクノロジーの進化に応じて、さらに多くのツールを提供していく予定である」と述べている。
同社におけるAI活用の専門的アプローチは「Apollo」と呼ばれており、従業員は40種類に及ぶ大規模言語モデル(LLM)の中から、目的に応じて適切なモデルを選択できるようになっている。
外部の視点からは、40種類ものモデルは選択肢が多すぎるように映るかもしれない。しかし同氏は、この数のモデルを用意することが、性能と効率の両面において重要であると述べている。
「このアプローチにより、ユースケースが存在する場合には、複数のLLMをデータに対して実行し、目的に応じた具体的な回答を得ることが可能になる」
Boehringerは、自社内でAIモデルの開発は行っていない。Schummelfeder氏は、AI分野の進化が非常に速いため、ITリソースを他の優先分野に振り向ける方が合理的であると述べている。
同社は、「Gemini」や「ChatGPT」といった主流のLLMに加えて、より研究用途に適した専門性の高いニッチなモデルも活用している。
「特定のLLMは、他のモデルよりも特定のユースケースに適している場合がある。効率性も重要な要素であり、全ての問いに対して高コストなモデルを使用するのは現実的ではなく、そのようなアプローチには合理性がない」