KDDIスマートドローンが描く平時と有事のドローン活用--AIと通信で進化

加納恵 (編集部)

2025-06-09 17:13

 KDDIスマートドローンは5月29日、「技術と現場」「社会課題と解決策」「お客様とパートナー」をつなぎ、未来を共創する場として「KSD CONNECT 2025」カンファレンスを開催した。

 「社会実装のリアル 現場から見えるドローンの未来」と題したキーノートセッションに登場したKDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏は、ドローンにおける技術の進化と、それが社会の中でどのように生かされているのかなどについて話した。

KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏
KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏

 KDDIスマートドローンは、2022年に事業を開始。通信とドローンの融合による新たな社会価値の創造を掲げ、これまでに延べ70自治体、460社以上の企業と連携。総飛行時間は2000時間、総フライト実施回数は1万回以上と実績を積み重ねてきた。

 2023年1月には、埼玉県秩父市で土砂災害で孤立した地域へのドローンによる物資輸送を1カ月にわたり実施。2024年1月に発生した「能登半島地震」では、道路補修工事の現場にドローンを常設することで、進捗(しんちょく)状況を可視化するなど、災害時における社会貢献度は大きい。

 これらの知見を生かし、2024年11月にはドローンポートの設置から遠隔運行までを一気通貫で提供する遠隔運行サービスの提供を開始。2022年には、安心・安全な運行を担う人材を育成するため、スクール事業「KDDIスマートドローンアカデミー」も設立している。このほか、地域に根ざしたドローンの導入をパートナーと共に取り組むパートナー制度「KDDIスマートドローンパートナーズ」、日本航空(JAL)との連携による安全運行体制の強化などにも力を入れる。

KDDIスマートドローンアカデミー
KDDIスマートドローンアカデミー

 多方面との取り組みにより、ドローンの利活用を進める同社だが、博野氏は「ドローンソリューションの核になるのは機体」とし、出資する米Skydio(スカイディオ)の次世代AIドローン「Skydio X10」(X10)を紹介。

 ビジョンセンサーとモバイル通信を搭載し、自律飛行をしながら即時にデータを可視化でき、「まさに点検、災害、監視などの分野で、切り札となる、ゲームチェンジャーとなる存在」と評する。

 2024年度から国内での提供を開始しており、既に多くの現場で活用が進められているとのこと。中でも石川県とは「2024年9月の『令和6年9月能登半島豪雨』では被災直後の状況を俯瞰(ふかん)的にX10で確認し、石川県庁と即座に情報を共有。その後も2024年11月には防災訓練、12月には行方不明者の捜索や事故時の初動対応において、X10による遠隔運行の有効性を確認している」など、数多くの取り組みを進める。

 自律飛行ができ機動力の高いX10の可能性をさらに広げるため、新たな動きとして期待されるのがドローンの常時設置だ。博野氏は「災害や有事の時に即座にドローンを飛行させ、駆けつける体制を構築でき、社会インフラとしての価値を一層高められるもの」と位置付ける。

 同社では5月29日に常時設置を実現する自動充電ポート「Skydio Dock for X10」の注文受け付けを開始。暗闇や全地球測位システム(GPS)が届かないような環境下も含めて、さまざまな現場に即座にドローンを駆け付けさせ、リアルタイムでの状況確認が可能になるという。

自動充電ポート「Skydio Dock for X10」
自動充電ポート「Skydio Dock for X10」

 博野氏は「ドローンポートの設置により、平時は監視や警備、建設現場の進捗確認などに活用しながら、何かあった有事の際は、災害状況の確認や救助者の捜索活動に当たる。このようにドローンが平時と有事をつなぐための社会基盤として機能していく社会を実現していきたい」と、ドローンの新たな役割を示す。

ドローンが平時と有事をまたぐ社会基盤として溶け込む時代へ
ドローンが平時と有事をまたぐ社会基盤として溶け込む時代へ

 ドローンポートの設置場所については「KDDIと提携関係にあるローソンが有力候補」としながらも、自治体と連携し、警察署、消防署、学校などの公共施設への設置も推進していく考えだ。

 加えて、期待するのはデータ活用だ。「ドローンによってリアルタイムでさまざまなデータが取得できるようになった。次なる課題は必要なデータを必要なタイミングでいかに取得できるようにするかということ。この課題に対し、私たちはMODEと一緒に取り組むことにした」と説明。

 MODEが提供するAIアシスタント「BizStack Assistant」は必要な情報をチャット形式で取得できる生成AIツール。これにドローンを組み合わせることで、ドローンが異常を検知した際、映像を元にAIが状況を解釈・言語化し、現場スタッフへ通知するなどのことが可能になるとのこと。「AIとドローンの連携により、現場の対応スピードと精度を飛躍的に向上させていきたい」と新たな展開も見据える。

 KDDIスマートドローンでは、現在、石川県と共に取り組むドローン活用を他県や民間企業などにも横展開していく計画だ。博野氏は「そのために必要なのは民間でのコンソーシアム的な法整備。さらに平時と有事のドローン活用を両立させるため、さまざまな課題を解決していかなければならない。例えば平時にドローンを使いすぎると有事の際にドローンが足りなくなる可能性がある。そのため、待機率などを考慮した運用モデルを検証していく必要がある」とする。

 平時と有事の両方に欠かせないツールであるドローンだが、技術の進化やビジネスモデルの構築、さらには法整備、人材育成と解決しなければならない課題も多い。博野氏は「これらの課題に真摯(しんし)に向き合いながら、安心、安全なドローン社会の実現に向けて取り組んでいきたい」とした。

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