広島県は6月9日、都内で記者会見を開き、同県の企業や自治体と全国のAI開発者が共同でAI活用のアイデア創出や地域課題の解決などを目指すプロジェクト「ひろしまAIサンドボックス」で採択した20件の案件を発表した。湯崎(漢字は立つ崎)英彦県知事は「新たな未来を切り開く取り組みに期待したい」と語った。

広島県の湯崎英彦知事
同県は、2018年からデジタル技術を活用した商品やサービスの開発を支援する「ひろしまサンドボックス」を実施しており、「サンドボックス(=砂場)」をコンセプトにした実証実験の場と位置付ける。2024年に「AIで未来を切り開く・ひろしま宣言」を表明しており、初のテーマとなる今回のプロジェクトを立ち上げた。
今回のプロジェクトでは、県内企業や自治体と全国のAI開発者をマッチングし、開発者が開発や実証に要した費用の半分を県が補助する。「AI開発者のアイデア実現支援」(自由提案型)と「地域課題解決/ビジネス創出支援」(課題提案型)の2つのテーマで案件を募集し、266件の応募の中から自由提案型で9件、課題提案型で11件の計20件を採択した。期間は2026年2月までの8カ月間で、商品・サービスの完成だけにこだわるのではなく、アイデア実現への挑戦そのものを支援する取り組みだとしている。

「ひろしまAIサンドボックス」の特色
会見した湯崎知事は、「AIは進化し、その活用がコスト削減や業務効率化の点で注目されているが、社会を大きく変える力を秘めている。広島は挑戦を応援する土地柄で、今回はAIにフォーカスした挑戦を応援したい。新規性や創造性などを重視して審査、採択しており、失敗を恐れず挑戦してほしい。タイトなスケジュールだが、広島発のイノベーションが創出され、そこまでに至らなくとも素晴らしいものとなることを期待している」とした。
20件の採択者と取り組みの概要は以下の通り。
1.AVA Intelligence/せともす
生成AIを活用した宿泊施設向けツールを開発。観光地や食事など観光客の好みからAIでパーソナライズした情報を提供し、集客を支援する。
2.バレットグループ/広島電鉄
AIと「LINE」を活用した公共交通機関利用者の満足度向上。利用者の声を街作りや交通体系に反映していく。
3.Creator's NEXT/広島県リースタオル
飲食店へのおしぼりの納品データを基にした需要予測AIを開発。飲食店の活性化や人材活用を支援する。
4.FunnelSphere/門井商店
食料品の栄養情報などを記述する食品企画書の管理業務効率化をAIで支援。大規模言語モデル(LLM)やユーザーインターフェースなどを開発する。
5.Jij/オタフクホールディングス
工場からの在庫移動計画を最適化するAIを開発。AIによる計画立案の自動化と配送業務の最適化を目指す。
6.デジタルソリューション/津田製作所
変動要因が多く属人的でシステム化が困難だった中小製造業の生産工程計画を最適化するAIを開発する。
7.スカイディスク/鳴滝工業
企業や案件ごとにバラバラな内容や形式になりがちな受注情報を標準的な形式に変換し、効率的な生産計画の立案を支援するAIを開発する。
8.INDX/インシップス
非構造化データを構造化データに変換する技術などを活用し、美容関連企業の業務や営業の効率化を支援する。
9.DeepEyeVision/三原駅かなもと眼科
緑内障の早期発見と治療化を実現すべく、数十分を要する視野検査の時間を数秒で可能にするAIを開発していく。
10.オノゴロ/医療法人松栄会
認知症患者をサポートするためAIによる電話自動応答ケアサービスを開発していく。
11.ZIPCARE/医療法人社団明和会
見守り介護ロボットと要介護者の行動パターン分析AIの開発。データにより介護現場に真に求められるテクノロジーの実現を目指す。
12.EraX/ひろぎんナレッジスクエア
生成AIを活用した次世代のプログラミング教育支援を提供する。
13.Directors/寺尾園芸土木
庭園職人の育成を支援するプラットフォームを開発。熟練技術者の知見をAIにより学習でき、多言語化で職人を目指す外国人にも対応する。
14.ビーライズ/広島ドラゴンフライズ
プロバスケットボールチームの広島ドラゴンフライズと共同で、AI選手アバターなどによりファンサービスを開発する。
15.エボルブ/ヤルキマントッキーズ
ヤルキマントッキーズが運営するプロeスポーツチーム「広島 TEAM iXA」とファンをつなぐAIマネージャーアバターを開発する。
16.Lighthouse/テレビ新広島
地域視聴者に支持される番組作りを支援する地方放送局や報道記者らの知見を生かしたAIインタビューツールを開発する。
17.whyme/メビウスマネジメントサービス
後継者不足に直面する中小企業の事業承継を支援するため企業価値の算定や後継者育成計画の立案などを行うAIを開発する。
18.エクレクト/広島県
県庁への電話問い合わせに対応する音声AIを開発。業務効率化だけではなく、問い合わせをする県民の体験(CX)の向上を図る。
19.NITI Technology/北広島町
町議会の議事録作成や書き起こしなどを行うAIを開発。情報活用や地域住民の発信に活用していく。
20.AI DARUMA/三原市
相続での相関図作成と相続人調査を支援するAIを開発。相続にまつわる市の業務効率化やAI活用人材の育成、地域への貢献を目指す。

湯崎知事と採択プロジェクトの担当者ら