ネットワーク大手のCisco Systemsは米国時間6月10日、AIのキャンパス(構内ネットワーク)導入に特化した新型ルーターとスイッチを発表した。同社は、AI向けネットワークの開発でNVIDIAと協業している。
Ciscoは、ハードウェアとともに、ネットワーク管理ソフトウェアの最新版も発表した。新バージョンでは、同社が開発した大規模言語モデル(LLM)の「Deep Network Model」を活用し、ネットワーク関連の作業を自動化する。
また、ネットワーク管理の多くが「AgenticOps」と呼ばれるアプローチで実現可能だと述べている。これは、AIエージェントの設計と改善を、DevOpsに似た自動化された手法で進めるという考え方になる。
これら一連の取り組みは、6月8~12日に開催の年次カンファレンス「Cisco Live」で発表された。
ハードウェア面では、Ciscoの「Secure Router」シリーズの最新版として「8100」「8200」「8300」「8400」「8500」の各モデルが発表された。同社によれば、これらの新モデルは従来の製品に比べてスループットが3倍に向上しており、ブランチネットワークにおけるトラフィックの増加に対応するために設計されているという。
また、キャンパスLANスイッチ「Catalyst」シリーズの新モデルとして「9350」と「9610」も発表された。これらは最大51.2Tbpsのスループットと、5マイクロ秒未満の低遅延を実現しており、さらに量子耐性を備えたセキュアネットワーキング機能によって、高リスクなAIアプリケーションの強化にも対応していると、同社は説明している。
今回発表された新しいハードウェアには、「Meraki」シリーズのWi-Fiアクセスポイントの新モデル「9179F」や、AIの産業利用を想定して設計された堅牢なネットワークスイッチが含まれている。これらのデバイスには、「Ultra-Reliable Wireless Backhaul(URWB)」と呼ばれるワイヤレスブロードバンド技術が搭載されており、CiscoはURWBとWi-Fiを同一デバイスで統合できる点を強調している。
新たに発表されたハードウェアとあわせて、Ciscoは、ネットワーク管理ソフトウェアがCatalystおよびMerakiの各デバイス、さらに産業用スイッチの制御を一元化し、「統合管理プラットフォーム」上で管理できるようになると発表した。
統合管理プラットフォームの中核を担っているのが、Ciscoが新たに開発したDeep Network Modelである。Ciscoによれば、このモデルは、Cisco Certified Internetwork Expert(CCIE)レベルの技術資料からCisco U.の教育コンテンツまで、数十年にわたる同社の専門知識を反映した独自のコーパスで学習された、ドメイン特化型のLLMであるという。
Deep Network Modelは、複数のケイパビリティーを有しており、その一例がネットワーク管理向けの自然言語インターフェース「Cisco AI Assistant」である。Ciscoによれば、同アシスタントはネットワーク上の問題を検出し、根本原因の特定やワークフローの自動化を可能にする。これにより、従来は数時間かかっていたトラブルシューティングを数秒に短縮できるという。
Cisco AI Assistantは現在、パブリックベータ版となっている。
もう1つの注目すべき機能が「AI Canvas」である。これは、セキュリティ運用担当者がネットワーク管理者やDevOpsチームとより円滑に連携できるよう設計された、AIベースのユーザーインターフェースだと同社は説明している。2025年秋に一部の顧客を対象に試験的に提供される予定である。
これら全ての機能は、従来のDevOps、DevSecOps、MLOpsといった枠組みを超えた、新たな運用モデルであるAgenticOpsの概念のもとに統合されている。
AgenticOpsとは、AIモデルを活用してアプリケーションを自動的に生成・更新する一連のライフサイクル全体を指し、さらにアプリケーションが企業内の各種リソースと連携・通信するために必要なAIエージェントの構築も含まれる概念である。
AgenticOpsのワークフローには、開発者による初期プロンプトの入力から、基盤となる言語モデルの再学習に至るまで、AIアプリケーションの継続的なテスト、改善、再コーディングのプロセスが含まれている。
CiscoはAgenticOpsを、企業内で高い自律性を持つAIエージェントを統合的に管理・調整する「オーケストレーション」の仕組みであると位置付けている。
この分野では、AutoGPT、CrewAI、LangGraph、OpenDevin、AgentOSといったスタートアップによる実装例も登場しており、AgenticOpsの概念が広がりを見せている。
Ciscoはさらに、AgenticOpsによって生成されるコードが、リアルタイムのテレメトリー、自動化、そして深いドメイン知識を活用し、ITチームの制御下で、機械のスピードでインテリジェントなエンドツーエンドのアクションへと変換されると主張している。

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。