IBMは米国時間6月10日、フォールトトレラント(無停止性)量子コンピューターのアーキテクチャーを定義し、これを実現するための大規模システム「IBM Quantum Starling」をニューヨーク州ポキプシーの同社データセンターで2029年までに構築すると発表した。このためには世界で最も強力なスーパーコンピューターの10の48乗倍以上のメモリーが必要になるという。

「IBM Quantum Starling」(出典:IBM)
量子コンピューターでは、外部環境やノイズなどの影響により量子ビットのエラー(量子エラー)が起きやすく、量子エラーを抑制することが安定かつ正確な演算処理の実行で不可欠となる。IBMは、効率的なフォールトトレラント量子コンピューターのアーキテクチャーを実行する上で、エラーを修正するコードの選択とコードを拡張できるようシステムをどのように設計、構築するかが鍵になると説明する。
さらに、これまでの標準的なエラー訂正コードには、拡張する上で複雑な操作の実行に十分な論理量子ビットを作成しなければならず、これには実現不可能な数の物理量子ビットが必要で、非現実的な量のインフラストラクチャーと制御電子機器が必要になる根本的なエンジニアリング上の課題があると指摘している。
論理量子ビットとは、1量子ビット分の量子情報を保持するエラー訂正された量子コンピューターの単位になるといい。論理量子ビットは、この情報を保存してエラーを相互に監視するために連携する複数の物理量子ビットで構成されるという。
新たに構築するIBM Quantum Starlingは、200論理量子ビットを用いて1億の量子演算を実行でき、同社が2033年以降の実現を計画する「IBM Quantum Blue Jay」システムでは、2000論理量子ビットに対し10億の量子演算を実行できるようになるという。数百~数千論理量子ビットを備えるフォールトトレラント量子コンピューターを実現することで、数億~数十億の演算実行が可能になり、創薬や材料探索、化学、最適化などの分野において、さらなる時間とコストの効率化が図られる可能性があるとしている。
同社が定義した実用的な大規模フォールトトレラント量子コンピューターのアーキテクチャーでは、次のような要素が必要になるとした。
- 有用なアルゴリズムが成功するための、十分なエラーを抑制するフォールトトレラントであること
- 計算を通じて論理量子ビットを準備、測定できること
- これらの論理量子ビットにユニバーサル命令を適用できること
- 論理量子ビットからの測定値をリアルタイムにデコードでき、後続の命令を変更できること
- より複雑なアルゴリズムを実行するために数百~数千論理量子ビットに拡張できるモジュール式であること
- 現実的なエネルギーやインフラストラクチャーなどの物理リソースが意味のあるアルゴリズムを実行する上で十分に効率的であること
同社の最新の量子コンピューターに関するロードマップでは、フォールトトレラント基準を実証、実行するための主要な技術的なマイルストーンが設定され、2025年予定の「IBM Quantum Loon」、2026年予定の「IBM Quantum Kookaburra」、2027年予定の「IBM Quantum Cockatoo」の各プロセッサーを通じて段階的に達成し、IBM Quantum Starlingの実現につなげるという。