海外コメンタリー

FinOpsによるAIコストの管理と最適化--認定プログラム「FinOps for AI」が始動

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2025-06-13 07:00

 FinOps Foundationはカリフォルニア州サンディエゴで開催の年次カンファレンス「FinOps X」において、「FinOps Certified: FinOps for AI」の立ち上げを発表した。この新しいトレーニングおよび認定プログラムの目的は、急上昇するクラウド環境の人工知能(AI)関連コストの管理と最適化に必要なスキルをFinOps実務者に習得させることだ。

 これは現在も重要なスキルセットだが、まもなくさらに重要になるだろう。現在、AIサービスに毎月20ドルを払っている人は、近い将来、料金が10倍になる可能性がある。なぜか。OpenAIの最高経営責任者(CEO)であるSam Altman氏が先ごろ認めたように、「現在の『ChatGPT Pro』のサブスクリプションは赤字である」からだ。ちなみに、ChatGPT Proの料金は月額200ドル。現在のAIの利用料金は採算度外視で安く設定されており、これをずっと続けることはできない。

 しかも、これらは個人や中小企業のAI利用料金に過ぎない。実際にAIを大企業に導入するには、桁違いに高いコストがかかる。この問題に対処するため、企業はFinOpsに注目している。

 FinOpsは、「Finance」(財務)と「DevOps」(開発・運用)の合成語で、財務管理と協調的でアジャイルなIT運用を組み合わせて、コストを管理する手法だ。もともとは、クラウドの料金を管理するための手段だった。FinOpsの第一の役割は、クラウド支出を最適化し、クラウドのコストをビジネス目標と整合させることだ。クラウドに関する意思決定を誤ると、膨大な額の損失が発生する可能性がある。Flexeraの2025年の「State of Cloud Report」によると、クラウド支出の27%は、使われていないリソース、十分に活用されていないリソース、忘れ去られたリソースに浪費されているという。そのため、クラウド支出の管理は企業にとって極めて重要だ。FinOps FoundationのエグゼクティブディレクターであるJ.R. Storment氏が基調講演で述べたように、FinOpsの実務者は、2019年の時点ではごくわずかだったが、5万6000人以上に増加しており、全世界のクラウド支出の半分以上を管理している。

 現在は、これに加えてAI支出も検討事項となっている。FinOps Foundationによると、FinOps実務者の63%がすでにAIコストの管理を求められており、AIイノベーションが加速し続ける中で、その割合のさらなる増加が見込まれるという。これらのコストの管理に失敗すれば、企業の価値が損なわれるだけでなく、イノベーションが阻害されるおそれもある。

 「FinOpsチームは、急増するAI支出を管理してコストを配分し、その増加を予測して、最終的にその価値を企業に示すことを求められている」とStorment氏。「しかし、このデータは変化が激しく複雑であるため、的を絞るのが難しい。また、AIのコスト超過は、適切に管理しなければ、イノベーションを停滞させる可能性がある」

 Storment氏はまた、経営幹部からの耳の痛い質問に言及した。「AIサービスを使っているが、支出が多すぎる。その目的を理解しているのか」という質問だ。一方で、CEOには、AI支出を明確な投資対効果(ROI)で証明し、正当化しなければならないというプレッシャーがある。IBMがCEOを対象に実施した調査では、65%のCEOがROIに基づいてAIのユースケースに優先順位を付けているが、生成AIへの投資から単なるコスト削減以上の価値が得られたと回答したCEOは、約半数(52%)にとどまった。

 今回発表された新しい認定プログラムは4部構成の教育シリーズで、コンテンツが段階的にリリースされるため、短時間でスキルアップして、急速に進化するAI環境に対応できる。カリキュラムはFinOpsとDevOpsの両方の担当者向けに設計されており、AI固有の基本的なトピックから高度なトピックまでを網羅している。

 最初のコースは「Introduction to FinOps for AI」で、FinOpsとAIの関係の枠組みや、AIに特化したコスト管理が重要である理由を解説する。これに続くコースは以下の通りだ。

  • Level 1(2025年9月に提供開始):AIのコスト配分、データの取り込み、異常検知、チャージバックモデルに焦点を当てて、AIのコストの仕組みが従来のクラウドサービスとどのように異なるのかを浮き彫りにする
  • Level 2(2025年11月に提供開始):コストの可視化と説明責任に焦点を当てて、AI投資の計画、予測、ガバナンスについて解説する
  • Level 3(2026年1月に提供開始):ワークロードとレートの最適化、ユニットエコノミクス、持続可能性、コスト効率の高いAIシステムの設計など、高度な分野を掘り下げる

 これら3つのレベルを全て修了すると、2026年3月から提供される「FinOps Certified: FinOps for AI」試験の受験資格が得られる。合格者には、「LinkedIn」などのプラットフォームに掲載できる24カ月間有効なデジタル証明書とバッジが授与される。

 なぜ全ての認定資格の展開にこれほど時間がかかるのだろうか。FinOps Foundationのプロフェッショナルデベロップメント担当バイスプレジデントのStacy Case氏によると、AIは急速に変化しているため、「全てが完了するのを待つのではなく、この道のりを人々とともに歩んでいくことにしている」という。

 従って、AIの有効な活用方法と、その莫大なコストを正当化する方法の両方を探るべく、FinOps for AIは、まさにAI自体と同じように、可能な限りのスピードで展開されている。

提供:zhengshun tang/Getty Images
提供:zhengshun tang/Getty Images

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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