CTC、配送ルートの作成時間を95%減--量子と数理最適化を活用した「OptyLiner」

加納恵 (編集部)

2025-06-13 11:36

 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は6月12日、「ラストワンマイル」配送の非効率性や人手不足の解決を目指し、高速配送計画サービス「OptyLiner(オプティライナー)」を発表した。量子コンピューティングと数理最適化で配送計画の作成時間を約95%削減する。

OptyLinerの概要
OptyLinerの概要

 OptyLinerは、CTCのほか、物流企業のTriValue、量子コンピューターソフトウェアの開発を手掛けるエー・スター・クォンタムの3社で共同開発したもの。数理最適化と量子コンピューティング技術を組み合わせることで、配送効率と能力の向上に結びつける。

 ドライバーの人手不足、再配達の増加による配送効率の低下、環境規制の強化など、物流業界は複合的な課題に直面している。中でも物流拠点から個人宅など、ラストワンマイルと呼ばれる配送ルートでは、配送ルートの複雑さや個別の時間指定などに加え、家具、家電といった配送では組み立て、設置作業が伴うなど、効率的な配車計画を立てるのが困難だったという。

 従来、これらの配送計画は、経験豊富な担当者の勘と経験に頼る部分が大きく、130件の配送計画に約2時間を要するなど、かなりの作業時間がかかっていたとのこと。そのため、配送日直前の受注は受け付けられないなど、機会損失も発生していたという。

 OptyLinerは、数理最適化と量子コンピューティング技術の組み合わせにより、従来のシステムでも20分以上かかっていたルート計算をわずか5秒程度で完了できるスピードが特徴。エー・スター・クォンタム 代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)の船橋弘路氏は「量子コンピューティング技術を単体で活用するのではなく、古典コンピューターによる数理最適化と組み合わせ、ハイブリッドで問題を解くことで、ビット数やエラー訂正など現状の量子コンピューターの制約に左右されずに実用的なソリューションとして提供できる」と説明する。

現在の業務とOptyLiner導入後の比較
現在の業務とOptyLiner導入後の比較

 家具の配送などを手掛けるTriValueの「さいたまセンター」で実証実験を行ったところ、熟練担当者が手組みで3時間かかっていた配送計画の作成が10分以内に短縮できたとのこと。配送車両の台数も10台から9台に削減でき、1台分の効率化に結びつけた。

 CTCでは、約2年前から実データを使った配送ルートの検証を開始。実際に物流現場にヒアリングしながら操作画面などを作り上げていったという。以前、TriValueで自動配車システムの導入を進めていたが、既存のシステムではルートの計算に時間がかかったり、操作が難しかったりといった理由から現場に浸透しなかったという。これを受け、マウスで直感的に操作できること、確定した配送にはロックをかけ、残り車両のルートだけを再実行できることなど、使いやすさにこだわったという。

 CTC デジタルサービス企画推進部 物流・GXサービス企画開発課長の牧野昌道氏は「人間が荷物を運ぶ以上、配送計画を人間が承認するという業務はなくならない。Opti-linerでは、90%精度で自動生成された計画に対し、残りの10%を現場の知見で迅速に修正・調整できる設計にしている。実際の配送では、路上駐車が多くて車が停められない、荷主さんによって配送時間が決められているなど、ベテランの配送員にしか分からないパラメーターがある。それに対応できる設計にしている」と強調する。

 現在、設置など付帯業務が伴う、家具、建材、家電などの配送ルート作成に対応しているが、業種ごとに異なる配送条件や付帯作業の特性を考慮した最適なルート計画を作成できるため、幅広い業界に対応できるとのこと。

 提供価格は「スタンダードプラン」で車両20台まで、1カ月当たり20万円。1カ月間のトライアルプランも用意する。車両を1台追加すると1日500円の追加料金がかかる。この際、配送計画に組み込まれた車両台数分のみの課金となる。

 CTC 常務執行役員 デジタルサービス事業グループ担当役員の藤岡良樹氏は「CTCが物流を手掛ける発端となったのは、TAKADAと2020年に設立したTriValue。事業を続けていく中で、人手不足や輸配送効率の低下、環境問題など、さまざまな社会課題に直面した。これらの社会課題を最新のITを使って解決できないかと試行錯誤した結果、OptyLinerが誕生した」と開発のきっかけを話す。

 OptyLinerは、単一事業所内の最適化から複数営業所間の車両の貸し借りを含めた広域での全体最適化を見据え、3年間で20億円の売り上げを目指す。

(左から)エー・スター・クォンタム 代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の船橋弘路氏、CTC 常務執行役員 デジタルサービス事業グループ担当役員の藤岡良樹氏、TriValue 代表取締役の高(漢字ははしご高)田輝成氏
(左から)エー・スター・クォンタム 代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の船橋弘路氏、CTC 常務執行役員 デジタルサービス事業グループ担当役員の藤岡良樹氏、TriValue 代表取締役の高(漢字ははしご高)田輝成氏

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