組織はビジネス環境に適した構造を採るものであり、その時代の産業構造を映す鏡という見方ができます。社会、業界、そしてそれぞれの企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)がさらに進展し、デジタルが当たり前となるビジネス環境において、企業はどのような組織運営を行うことが求められるのでしょうか。
クラスター型組織とはどのようなものか
生成AIを含むAI技術が、社会だけでなく産業や事業に大きな影響を及ぼし、ビジネス環境を一変しようとしています。AIを中核としたテクノロジーのコンバージェンスが革新のエネルギー源となり、テクノロジーに強みを持つ中核企業が中心となって、業界を超えた多数のクラスターが形成され、産業構造が現在のプラットフォーム型からクラスター型に移行していくことが予想されます。
本連載の「AIコンバージェンスに適合した組織モデル--DAOの考え方を応用した組織変革」では、AIコンバージェンスの時代には、業種の枠を越えた外部との緩やかな連携が求められることから、その時代の産業構造を反映して、企業の組織形態も“クラスター型”が指向されると述べました。
クラスター型の組織は、一定の権限と自律性を持ち、全ての組織は論理的に対等であり、社内に閉じることなく、外部を含むさまざまな組織や人材と自由に連携を取りながら運営されるという特徴を持ちます。従来の企業のような固定的な組織形態にとらわれることなく、コミュニティーや部活のように自由に参加や離脱ができ、複数に所属することもできるような、より自由度の高いものとなるでしょう。
クラスター型組織に移行させるためには、多岐にわたる変革が求められますが、その要件は、「組織目的の再定義」「多様性と透明性の確保」「事実の見える化と意思決定の民主化」「評価・報奨の仕組みの再設定」の4点が考えられます(図1)。

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これらの要件について、順を追ってその概要とポイントを見ていくこととしましょう。
要件1:組織目的の再定義
多くの企業が経営理念や企業ビジョンを定義し、公表しています。昨今では、自社の存在意義を明確にするために、「パーパス」を定義する企業も増えています。しかし、一般的にそこで語られているパーパスやビジョンは、「~によって社会に貢献する」といった抽象的な表現が多く、従業員一人ひとりや各組織が具体的に取るべき行動を直接的に示しているとは言い難いのではないでしょうか。
理想的には、企業全体のパーパスは明確に各組織のパーパスに分解され、それらの総和が全体のパーパスとなるよう、しっかりとひも付けられていなければなりません。そして、組織のパーパスとそこに参加する個人のパーパスが結びついており、各個人のパーパスの総和が組織パーパスとなっていることが求められます(図2)。
Web3の世界観を実現する組織モデルとして注目される分散型自律組織(DAO)のような組織の場合は、運営目的が絞り込まれており、運営ルールがスマートコントラクトに明記されているため、ビジョンやパーパスを声高に叫ぶ必要はありません。しかし、異なる価値観を持つ多様な人々が複合的な目的を持った企業という組織において、チームを作り協力し合って事を成し遂げるためには、メンバーが同じ方向を向いているという心理的安全性と目的への共鳴が不可欠です。ビジョンやパーパスは人や組織が向かうべき方向を示すものであり、多様性が尊重され、一人ひとりの自律性や判断力が求められるクラスター型の組織では、その重要性はさらに高いといえます。

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もう1つ留意しなければならないのが、目的や目標の内容です。多くの企業の中期経営計画などで示されている経営目標の重要な項目は、売上高、経常利益、拠点数、人員数など規模に関わる指標です。インターネット以前の大量生産・大量消費の時代であれば、規模を追い求めることに有用性は認められました。しかし、AIコンバージェンスの時代においては、規模の拡大だけが成長ではないことを認識しなければなりません。特に少子高齢化が進み、労働人口が確実に減少する日本において、目指すべきは規模の拡大ではなく、少ないリソースで多くの価値を生み出すことであるはずです。そうであるならば、企業が目指すべき姿を表す指標としては、株価純資産倍率(PBR)、労働生産性(従業員一人当たりの付加価値額)、従業員一人当たりの純利益、無形資産比率といった企業価値の質的向上に関わる指標がより重要となるのではないでしょうか。