ビジネスアジリティー向上:ビジネスのスピードアップを図ろう

第1回:IT開発のプラクティスから踏み出し、ビジネス活動全体のアジリティーを上げるべき理由

岡本修治 (KPMGコンサルティング)

2025-07-01 07:00

 「アジャイルソフトウェア開発宣言」から2025年で四半世紀が経過し、IT開発そのものにかかわる活動のスピードや成熟度は向上していますが、ビジネスやマネジメントの意思決定のやり方には、変化が見られず、ビジネス活動全体のスピード向上や価値創発のボトルネックとなっています。デジタルトランスフォーメーション(DX)、そして、その先に起こるイノベーションにより新たな知識創造が起き、それまでの技術的、経済的な秩序が揺さぶられる際は、平時には有効に機能する価値基準、意思決定プロセス、組織構造などが逆に足かせとなってしまうのです。本連載では、不確実性の時代との向き合い方を、先人たちの培った理論と実践の両面から解説します。

なぜ、ビジネスアジリティーなのか

 筆者が所属するKPMGコンサルティングは、2023年にZDNET Japanにて連載「不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう」を執筆しました。ここでは、主にIT開発プラクティスの観点から、ウォーターフォールに代表される従来型のアプリケーション開発手法が抱える構造的な問題、それらが引き起こす具体的な課題をアジャイル開発ではどのように解決を試みているのかを解説しました。

 今回は、IT開発のプラクティスから一歩踏み出し、ビジネス活動全体のアジリティーを上げるためにいかに考え、行動するかというテーマを掘り下げていきます。

 アジャイル開発を試行し成功体験を獲得したチームや組織ほど、特にプロダクトオーナーに代表されるビジネス側の迅速な意思決定(のための権限)がいかに重要で、かつそれが反復というフィードバックループを通じて自律的に最適化されていく理想的なサイクルがもたらす価値に早い段階で気付き、プロセスや組織の見直しを行っています。

 つまり、世の中の多くのことがソフトウェアで動いている現在においては、「アジャイル=IT開発のやり方」という捉え方から脱却し、マーケティングや人事、経営企画などの間接部門、さらにそれら全てをつかさどる経営も含めた、ビジネスや組織の運営そのものをアジャイルにしていく必要があります。また、そうすることで、真の意味でのアジリティー、それがもたらす本当の価値を享受できるようになります。

 このように、アジャイル開発のフィロソフィーをITの開発活動に限定せず、ビジネス活動全体に拡大していこうという動きは、これまで「大規模アジャイルフレームワーク」と称していた「Scaled Agile Framework」(SAFe)のバージョン5が2020年にリリースされた際に「ビジネスアジリティーの獲得」を掲げ、さらには最新のバージョン6では「ビジネスを加速させるビジネスのシステム」とうたっていることにも 象徴されます。

 さらに、アジャイル開発に精通したアジャイリストの交流サイト「アジャイルジャパン」の後援を受ける日本SPI(ソフトウェアプロセス改善)コンソーシアムは、従来は文字通りソフトウェアプロセス改善、例えば、設計、テスト、品質など各領域の技術や管理手法に閉じた発表テーマが大半を占めていました。ところが、2025年10月に開催される 年次カンファレンスでは、「人や組織が望む価値を創造できる社会の実現」をそのミッションに掲げ、そのためには人とビジネスとイノベーション(変革)を「つなぐ」ことがヒントになると捉え、募集テーマとしたことも象徴的といえます。

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