ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は、代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)指田慎二氏による説明会を開催した。新体制における事業の方向性や技術への投資などについて話した。
今回の説明会は6月13日に公開された、ソニーのイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の事業プレゼンテーションを受けて実施されたもの。今後の成長戦略などについて活発な質疑応答が交わされた。
I&SS分野は、2024年度に売上高と営業利益で過去最高を更新し、5年ぶりにフリーキャッシュフローの黒字化を達成。モバイルセンサー事業におけるセンサーの大判化がこの成長をけん引した。
事業領域を「成長牽引事業領域」「収益事業領域」「戦略事業領域」の3つに分け、各領域の特性に応じた事業運営を推進。イメージセンサー市場では、全体をけん引するドライバーとして「動画」を位置付け、動画性能の向上を通じたクリエーションにおける可能性の拡大を中長期的な成長機会と捉える。

事業領域別の方向性
成長牽引事業領域とされるモバイル用イメージセンサーについては、進化のドライバーとなる高密度化を、(1)プロセスノードの適合化、(2)多層化――の2つの技術で実現していく方針。この2つの組み合わせにより、感度、ノイズ、ダイナミックレンジの向上に加え、高精細かつ高フレームレートな動画撮影を実現し、イメージングとセンシングの融合も推進していく。
指田氏は、SSSのミッションである「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす会社」を掲げ「モバイル向けイメージセンサーを主軸としつつも、将来的な成長に向けて第2、第3の柱を築くことは重要。半導体事業の根幹が技術にあるとの認識から、今回の新体制では新たに最高技術責任者(CTO)を新設し、大池 (CTO 研究開発担当の大池祐輔氏)が就任した」と新CTO体制を紹介した。
高密度化については「ロジック半導体とは異なり、SSSの技術はアナログベースであるため、ゼロからのライン構築などはない。既存設備に付加する形で価値を増大する」(常務 最高財務責任者〈CFO〉の高野康浩氏)と説明。今回の高密度化においても、既存アセットを最大限に活用しつつ、部分的に追加投資する方針であることを明らかにした。
具体的な投資額は明らかにしなかったが、「量産関連の投資は、次期中期経営計画以降になる」との見通しを示す。
収益事業に位置付けられる一眼カメラ用センサーは、「動画性能は進化の余地が大きい領域」とし、フルサイズセンサーを重視していく考え。2023年に商品化されたデジタル一眼カメラ「α9 III」に搭載された「グローバルシャッター」を「静止画・動画双方で新たな価値を提供する技術」として紹介し、ソニーグループ間の連携を強化し、安定的な収益貢献を目指すとした。
戦略事業領域となる車載事業では、多眼化を成長ドライバーと認識。2030年度には車載カメラの数量市場が2019年度比で7倍以上になると見込み、読み出し速度の向上と高温特性・発熱対策の進化を続けていく方針だ。こちらに関しては、2026年度に金額シェア43%を目指す。
「成長を見込んでいる」とした熱アシスト磁気記録方式(HAMR)用レーザーについては、「HDDメーカーであるSeagate Technologyと15年にわたるパートナーシップを経て、HDD容量を大幅に向上させる技術を完成させた。この度、この市場で長年の実績を持つWestern Digitalともパートナーシップを結んだ」(指田氏)と新たな取り組みも発表した。

HAMR 用半導体レーザー
指田氏は「この2社はHDD業界におけるリーディングカンパニー。この領域におけるI&SS事業の顧客基盤は確実に広がっている。データセンターへの置き換えスピードなど、今後の市場動向は注視していく必要はあるものの、HAMRの拡大は中長期的に着実に進んでいくと期待している」と話した。
会見で人材の確保について質問が飛ぶと「当然グローバルで人材を獲得していくという考えもあるが、やはり学生時代から半導体がどういうものなのかを伝え、興味を持っていただくことが非常に重要。そういった意味で産官学の連携に取り組んでいるところ。大学に講師を派遣するなどの動きにもつなげている。今後は半導体エンジニアに加え、AIやそのほかのエンジニアの方も採用できるように進めていく。また、現在会社で働いているメンバーには、仕事内容をしっかりと理解してもらい、楽しんでいただけるかが採用後の重要な課題。業務内容やキャリア、そして魅力的な処遇などを含め、新たな施策を打っている状況」(指田氏)と説明した。
熊本県に建設中の新工場については、「工事は非常に順調に進んでおり、建屋は下期に完成する見込み。ただし、稼働時期については経済状況をみながら慎重に判断していく」(高野氏)とした。
I&SS分野の投下資本利益率(ROIC)は、2024年度実績で9.8%、2025年度見通しで10.4%。2023年度以降は改善傾向にあるが、足元での設備投資の増加などにより、2024年時点での目標は未達だ。指田氏は「ROICは引き続きI&SS分野の重要な経営指標と捉え、その改善に向けては高密度化によるモバイルセンサーの収益性向上と、戦略事業領域の利益貢献をドライバーに利益率の改善を図る。設備投資についてはさまざまなファブライト(大部分の生産を外部に委託する形態)施策を含めた選択肢を検討し、投資負担の軽減によりROICの向上に努める」とコメントした。

ROIC&フリーキャッシュフロー(FCF)
「I&SS分野を取り巻く環境変化のスピードは早まり、事業運営の難易度も高まっている。このような中でも収益性にこだわり、中長期に向けたソニーグループの企業価値向上に貢献できるよう事業の成長を実現していきたい」(指田氏)とまとめた。

代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)指田慎二氏(中央)、最高技術責任者(CTO)研究開発担当の大池祐輔氏(右)、常務 最高財務責任者(CFO)の高野康浩氏(左)