米Pure Storageは現地時間6月17~19日、米国・ラスベガスで年次イベント「Pure//Accelerate 2025」を開催している。18日午前の基調講演では新たな取り組みとなる「Enterprise Data Cloud」が発表され、ストレージデバイスのレイヤーからより抽象度の高いデータのレイヤーに対する取り組みを強化していく方針が打ち出された。
これまでのPure//Accelerateの基調講演では、「HDDの終焉」の宣言や、独自の大容量高密度のフラッシュメモリモジュール「DFM」を発表するなど、ストレージ機能の根幹部分に関わる強力なメッセージを発信してきたが、2025年はやや方向性が変わり、データマネジメントの領域での取り組みが前面に押し出された。
ユーザー企業がストレージを導入して運用するのは、データを安全に保管し、活用していくために必要だからであり、ストレージ自体に用があるわけではないのはその通りで、データマネジメントの部分で機能強化を図るのはユーザー企業の課題解決に直接関わる取り組みであると言えるが、方向性の変化として感じられるのも確かだ。
同社は2024年末にハイパースケーラーの1社(のちにMetaであることが公表された)から「Design win」を勝ち取ったと発表したが、これはパフォーマンス重視のTier1ストレージの話ではなく、容量重視/コストパフォーマンス重視のストレージの領域でのことだった。つまり、「バイト単価という指標においてもフラッシュストレージはHDDを上回った」というPure Storageの主張が、大規模なストレージシステムの運用を行なうハイパースケーラーによっても認められたという形であり、同社が創業以来続けてきた「HDDからの世代交代」が一段落したタイミングだとも言える。
逆に言えば、現在の同社はHDDのような分かりやすい「敵役」を失い、分かりやすい対立構造に基づくメッセージを打ち出しにくくなっているとも言える。そうした中で新たに打ち出された「データマネジメント」というメッセージは、同社の歩みが新たなフェーズに突入したことを象徴するものと見ることができるのかもしれない。

Pure Storage CEOのCharles Giancarlo氏
最高経営責任者(CEO)のCharles Giancarlo(チャールズ・ジャンカルロ)氏は、まず同社の業績について「エンタープライズ市場で毎年成長を続けている唯一の企業」だと紹介。売上高や利益率についても良好だとした上で、さらに同社の収益の半分がサブスクリプションからのものだと明かして、ハードウェアの販売から継続的なサービス利用へとユーザー企業の意識を変えた“Evergreen”が広く受け入れられていることを強調した。
また、同氏は競合他社との差別化ポイントとして、同社の研究開発投資が売り上げの20%以上を占めていることを挙げ、「われわれはデータストレージをコモディティー製品ではなく先端技術だと考えている。それこそがわれわれがデータストレージの分野でナンバーワンのイノベーターであり続けている理由だ」とし、具体例として最新の300TBモジュールが公表されている「DirectFlash Module」(DFM)を挙げた。「HDDの代替品として扱われるSSDとは異なり、DFMはわれわれのソフトウェアで直接管理される。これが、われわれの製品が競合の5倍の性能を達成できている理由だ」とGiancarlo氏は強調した。
続いてGiancarlo氏は、AIが企業データに対して与えるインパクトについて話を進めた。同氏はAIが企業内のソフトウェアとデータの位置付けに変化をもたらしたと指摘。Netscapeの共同創業者であるMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏の「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる(Software is eating the world.)」という発言を引用した上で、かつてはソフトウェアの価値が高かったが現在はソフトウェア以上にデータの価値が高まっているとし、破壊的な革新が次々と起こっていく中、ストレージやデータの管理に関しては旧態依然の状態が続いていると指摘した。
Giancarlo氏は「従来のストレージ管理では、アレイ間で空き容量のやりとりはできず、人手に頼った管理手法がまだまだ数多く使われている」と言い、例えばスナップショットやバックアップのポリシー、セキュリティやデータレジリエンスなど、多くの運用管理がアレイ単位で実施されていることが課題となっているとした。続いて、「こうした課題はストレージ視点で見ているせいだが、これからはデータ視点で考えていくべきだ」と指摘した。データは本来アプリケーションと関連付けられており、ストレージと結びついているわけではない。データをコピーして移動させることは可能なはずだが、データがいつどこにコピーされ、どこに移動したのかを記録して追跡するような仕組みは現在のストレージには備わっていない。こうした操作は手動で実行され、管理されており、一貫性を欠いているという。
こうした現状をGiancarlo氏はクラウドアーキテクチャーと比較した。クラウドでは物理的なデバイスの詳細を気にすることなく、論理的な操作だけで一貫した体験が得られるようになっている。同氏はエンタープライズストレージアーキテクチャーとクラウドストレージアーキテクチャーを比較し、エンタープライズストレージは「垂直的、手動操作、サイロ化傾向」、クラウドストレージは「水平的、自動化、ストレージプール化」といった違いがあると説明。クラウドストレージはロールベースのアクセス制御の導入なども容易で、AIからのアクセスなどにも容易に対応できるため、エンタープライズストレージに関しても物理的な実体を伴うシステムではありながら、クラウド型のアーキテクチャーに移行していく必要があるとし、Pure Storageでも「既存のエンタープライズストレージをどうやって『よりクラウド風に』変えていくことができるのかを考え始めた」と振り返った。そして、その成果として発表されたのが「Enterprise Data Cloud(EDC)」ということになる。

Enterprise Data Cloudの全体像
EDCのコンセプトを実現するためには、一貫性のあるソフトウェアレイヤーが必要になるが、この役割を同社のストレージOSである「Purity」が担う。Purityは段階的にカバレッジを拡大しており、ブロック、ファイルに加えて現在はオブジェクトストレージのサポートも追加されているため、あらゆるストレージシステムに対して一貫性のある管理レイヤーとして機能することが可能だ。
Purityに加えて、データに関するさまざまなデータを保存するためにKey-Valueストアが用意され、インテリジェントなコントロールプレーンを構成する。最終的には、ユーザー企業が保有するアレイ群はクラウドのように管理可能になり、個別管理ではなく全体をまとめて管理できるようになる。Giancarlo氏はEDCに関して「これは単なるストレージ管理の手法の変化ではなく、ユーザー企業がデータを取り扱う方法が変わるというより重要な意味を持つ大きな変革だ」と強調した。
EDCは、基盤として個々のストレージシステム上で稼働するPurityに組み込まれた統合機能である「Pure Fusion」を必要とするため、現時点では同社製ストレージのみが対象となる。また、EDCは現時点では「製品ではない」と明言されており、アーキテクチャーもしくは新たなパラダイムとして今後数年にわたって段階的に整備されていく中長期的な取り組みとなる。