ヴイエムウェアは6月20日、IT基盤製品の最新版「VMware Cloud Foundation(VCF) 9.0」の正式提供を発表した。「モダンプライベートクラウドの実現」にフォーカスしたVCFのメジャーアップデート版となる。同社によると、約1万社の顧客の87%がVCFを継続して利用しているという。

「VMware Cloud Foundation 9.0」の概要
VCF 9.0は、2024年8月の年次カンファレンス「VMware Explore 2024」で発表された。2023年11月のBroadcomによる買収を経て開発されたフラグシップ製品となり、かつてはコンポーネントとしての導入が中心だった「vSphere」(サーバー)や「vSAN」(ストレージ)、「NSX」(ネットワーク)を統合。仮想マシンやコンテナーおよび「Kubernetes」などによるモダンアプリケーションの実行環境を提供し、マルチクラスターの管理を行える。自動化やセルフサービスなどクラウドライクな運用を実現しつつ、ユーザー主体のセキュリティや制御など大規模組織のニーズに応えるとともに、総所有コスト(TCO)の最適化の価値も提供するとしている。
同日のVCF 9.0提供発表会に登壇したカントリーマネージャの山内光氏は、多くの企業が自社のIT基盤を最新鋭のオンプレミスデータセンターやプライベートクラウドで活用したい意向にあると述べた。

ヴイエムウェア カントリーマネージャの山内光氏
同社が約1800社の顧客の最高情報責任者(CIO)らにアンケートした結果、回答者の53%が今後3年の最優先事項にプライベートクラウドを挙げ、69%がクラウドネイティブなアプリケーションなどをパブリッククラウドからプライベートクラウドへ移行した。約3分の2は、プライベートクラウドとパブリッククラウドのハイブリッド構成を選択したという。
また、94%はパブリッククラウドへの支出に懸念を示しており、92%はセキュリティとコンプライアンスのためにプライベートクラウドを最重要視しているという。特にAIや生成AIの本格的な活用を進める上では、AIモデルの開発におけるデータのセキュリティやコンプライアンスが大きな課題だとした。他方で、従来のIT環境から続くサイロ化の解消なども課題になっているとした。

「モダンプライベートクラウド」の要素
山内氏は、こうした実態を踏まえてITインフラストラクチャーを再定義する必要性が生じていると指摘する。最新鋭のクラウドのメリットを活用でき、企業の求める長期的な安定性、高いセキュリティレベル、ソブリン(主権)の確保し、パブリッククラウドで増え続けるコストの抑制や最適化も図る最適なアプローチが、モダンプライベートクラウドになるという。
VCF 9.0は、オンプレミスのデータセンターからプライベートクラウド、パブリッククラウド、ソブリンクラウド、エッジまでに広範なプラットフォームを一元的かつ簡素に統合運用でき、開発者や運用管理者、エンドユーザーに最適な環境を提供できると説明した。
VCFは、これまでもさまざまな業界の企業に採用され、顧客の目的もインフラの統合や運用管理の最適化、最新の仮想化環境への対応、高いレベルでのセキュリティの確保など多種多様ながら、VMwareのさまざまな製品を利用して目的をかなえてきた。ただ、そのためにVMware製品には多数のSKUが存在する状態となり、製品ごとのアップデートサイクルも異なるなど、顧客がIT基盤から価値を得る上での弊害も発生していたという。
このためVMwareは、以前から部分的に各製品の統合化やサブスクリプションモデルの導入などに取り組んでいたが、Broadcomによる買収で急速に進行。SKUの統廃合やライセンスモデルの変更が顧客に混乱をもたらしたが、現在では落ち着きつつあるという。

ヴイエムウェア 執行役員 パートナー技術本部長の名倉丈雄氏
執行役員パートナー技術本部長の名倉丈雄氏によれば、VCF 9.0は、Broadcomによる買収以前からもともとVMwareが顧客に提供したいと望んでいた製品の形だったそうだ。VCF 9.0のベータ版開発には日本からも10社近くの顧客が協力しているといい、顧客の期待感は高いとのこと。山内氏は、約1万社の顧客の87%がVCFを継続利用しているとも明かした。
国内の顧客事例では、製造大手がグループ企業向けのプライベートクラウド基盤をVCFで構築し、本社が集中的に運用管理しつつ、グループ企業はセルフサービスで柔軟にリソースを調達できる体制を実現しているという。金融機関は、内製によるガバナンスを確保しながら、基盤のアップグレートや緊急のセキュリティ対応など効率的に実施すべくVCFを活用している。通信事業者では、ミッションクリティカルで大規模ながらもシンプルかつ安定的に運用可能な基盤を実現するためVCFを導入しているという。

Broadcom VCF部門 製品担当バイスプレジデントのPaul Turner氏
発表会にオンラインで参加したBroadcom VCF部門 製品担当バイスプレジデントのPaul Turner氏は、Broadcom体制となって以降、研究開発投資を拡大したと説明。2024年度の純売上高約519億ドルのうち18%に相当する93億ドルを研究開発に投資しているといい、この割合は、平均的な大手IT企業の投資を大きく上回るものだと強調した。
VCF 9.0では、AIなど最新のワークロードを最適に実行できるよう、例えば、仮想GPUの「vMotion」をダウンタイムゼロで行え、NVMeによるメモリー階層化技術でメモリーやサーバーのTCOを38%削減させたとしている。Turner氏によれば、Broadcom自身も内部のIT基盤をVCF 9.0ベースに移行。47カ所あったデータセンターを7カ所に統合して89%の稼働率を達成したり、プロビジョニングサイクルを週単位から分単位へ大幅に短縮したりといった成果を獲得しているという。
Turner氏は、VCF 9.0自体の高い提供価値をアピールしつつ、さらなる価値提供のアドバンストサービスとして、NVIDIA環境での最適なAI開発を支援するという「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」や、ランサムウェア攻撃などの脅威から環境を迅速に保護するという「VMware Live Recovery」、VCF自体にサイバー攻撃の侵入や侵害拡大を防ぐためのセキュリティ機能群を組み込める「VMware vDefend」を紹介した。
Turner氏によれば、VCF 9.0の開発に1年半近くを費やした。2024年8月の発表から約10カ月を経て、今回の正式提供に至った。今後は四半期ごとにマイナーアップデート、9カ月ごとにアップデートが提供されていく計画で、次のアップデートになるVCF 9.1のリリースは、2026年第1四半期ごろになる見込みだ。

「VMware Cloud Foundation 9.0」の全体像