前回、エンジニアといえども美意識を持つことが必要であるということを、プロトコルの例を用いて述べた。今回は、エンジニアもビジネスパーソンであることを意識していただくべく、ビジネスモデルの話をしてみたい。エンジニアとしてキャリアをスタートしたとしても、役職が高まるにつれて営業的な側面や、財務、人事などの業務についても広くあまねく知らなければならないと考えた次第である。
さて、この「ビジネスモデル」という言葉には、厳密な定義が存在しないと言っても過言ではないだろう。実際にビジネスモデル学会のウェブサイトでも、「定義が曖昧なのに、誰もが直観的に議論できることこそが、シンボリックな概念としてのビジネスモデルの魔力」とあり、厳密に定義付けすることを求めていないように思われる。
しかしながら、このようなあいまいさは、エンジニアとしてはなかなか受け入れ難いものである。自然科学的なアプローチでは、ある概念の構成要素や、その関係性が厳格に定義付けされているからこそ、そこから議論を展開できると考えてしまう。
そこで、野暮を承知にビジネスモデルを(1)商品・サービスを、(2)どのようなプロセスで取引し、(3)その決済をどのように行うか――と定義付けしてみたい。(1)は商流、(2)は情報流、(3)は金流ということである。この3つの要素を組み合わせることで、およそ世の中に存在する全てのビジネスを記述できる。
最もシンプルなものは、物の売買だ。図1の通り、販売者から購買者に対して商品が提供され、その逆の方向で金銭が支払われる。いわゆる物販はおおむねこのモデルである。

図1.物の売買
これに少し変化を加えると、非受益者が支払いを行うビジネスとなる(図2)。高齢の親の見守りサービスを、遠隔地にいる子供が支払う場合などがこれに当たる※1。
※1:もちろん子供も受益者だが、直接の見守りサービスを受けるのは親という意味。

図2.非受益者による支払い
(※初出時に図2の画像に誤りがあり正しい画像に修正しました。)
そして、もう一ひねりすると、広告を利用したビジネスが記述できる(図3)。広告主は、広告媒体に広告を出すとともに広告料を支払う。広告媒体は、視聴者・聴衆者向けに広告を提供する。そして、視聴者・聴衆者は、広告を見て、聞いて、広告主の商材を購入する※2。
※2:もちろん広告を見た視聴者・聴衆者全員が広告主の商材を購入するわけではない。だからこそ広告効果を測定するさまざまなツールやサービスが存在し、それを支えているのもICTである。しかしながら、本稿の本題ではないのでこれ以上立ち入らない。

図3.広告モデル
このように、商流、情報流、金流のさまざまな組み合わせをもって、「ビジネスモデル」と考えることができるのではないだろうか。そして、この視点で見ると、いずれの要素においてもICTの発展がビジネスモデルの発展に極めて重要な影響を与えていることが分かる。