AWS Summit

新たな価値創造に挑戦する“ビルダー”を支えるAWSジャパンの戦略

寺島菜央 (編集部)

2025-06-27 07:00

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は6月25日から2日間、千葉・幕張メッセで年次イベント「AWS Summit Japan 2025」を開催した。初日の基調講演では代表執行役員社長の白幡晶彦氏が登壇し、新たな価値創造に挑戦する人材「ビルダー」の支援について同社の方針を語った。

 AWSジャパンは、顧客と共に日本社会に新たな価値を創造するため、長期的な視点での包括的な投資とコミットメントをしている。2024年11月に代表執行役員社長に就任した白幡氏は、「私が社長に就任して8カ月が経過した。この間、多くのお客さまと対話を重ねてきた。エンタープライズや公共機関、スタートアップ全てのお客さまがグローバルで見ても最先端のイノベーションに挑戦していることに大変感銘を受けた」と語る。

 続けて同氏は「これまで日本企業は、“コンサバティブ”であるという声を耳にしてきており、私自身もそうだと思い込んでいたこともあった」とした上で、さまざまな顧客との対話を通して、新しい価値の創造に向けて積極的に挑戦していることが分かったという。

 AWSジャパンは、新たなビジネスモデルの確立に挑戦する顧客に対して、単なるテクノロジープロバイダーではなく“変革のジャーニー”に寄り添うパートナーでありたいとしている。変革のジャーニーでは、新たな価値創造に挑戦する人材「ビルダー」が最も重要になるという。同社は、ビルダーを支援するために「既存資産の活用支援」「レジリエンスの強化」「セキュリティへの戦略的投資」「生成AI」「ビルダーの育成」の領域でサービスを展開している。

既存資産の活用支援

 白幡氏は、多くの顧客から、これまで培った基幹システムの運用を維持したまま、信頼性やアジリティーを高めたいという要望があったと振り返る。既存資産の活用を支援する3つのサービスを紹介した。

 1つ目の「Oracle Database@AWS」は、「Oracle Exadata」で構成された基幹システムを性能や可用性を損なうことなく、AWS上で稼働できるようになる。2つ目の「Amazon Elastic VMware Service(EVS)」は、VMware環境をAWS上に展開でき、既存の運用ノウハウを生かしながらAWSのスケーラビリティーと信頼性を享受できる。

 3つ目が、一般提供を開始した「AWS Transform」。これは、生成AIが複雑な依存関係を解明し、暗黙知化したビジネスロジックを可視化することで、基幹システムのAWSへの移行を従来に比べ容易にする。これにより、プロジェクト期間を年単位から月単位に短縮することを可能にした。

レジリエンスの強化

 レジリエンスの強化では、障害が起こることを前提に、一部が故障しても全体としてどう動き続けるか、迅速に回復するかが重要だという。同社は、東京と大阪のマルチリージョン構成による高い可用性の確保に加えて、コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」のグローバルなレジリエンシー機能を提供する。東京と大阪リージョン間のレプリケーションにより、地域的な災害時も顧客サービスを継続することが可能になる。Amazon Connectは、6月25日から申し込み受け付けを開始し、近日中に利用できるようになる。

 また、グローバル規模の高可用性を実現するデータベースとして「Amazon Aurora DSQL」の一般提供も開始している。マルチリージョンでのアクティブ/アクティブ構成により、99.999%の可用性を実現する。Amazon Auroraは、2014年にクラウドネイティブなデータベースエンジンとして発表された。ミッションクリティカルでの活用が増えるにつれて顧客から運用性や信頼性、スケーラビリティーに関する要望が高まり、同社は最新の基盤技術により、クラウドネイティブなデータベースであるAurora DSQLを再発明したという。

 例えば、スマートフォン決済のプラットフォームやオンラインゲームのバックエンド、ECプラットフォームなどでは、各地域で発生するトランザクションをローカルで処理しながら在庫や注文データを別のリージョンと整合性を保って管理する必要がある。Aurora DSQLは、このような複雑なワークロードをシンプルなマネージドサービスとして実現する。

セキュリティへの戦略的投資

 白幡氏は、「社会的責任を伴うビジネスの展開においては強固なセキュリティが必要不可欠。AWSは、セキュリティを最優先事項として戦略的に投資を行っている」と説明する。AWSは、独自開発のハードウェアとソフトウェアで構成される「AWS Nitro」により、世界水準のセキュリティ基盤を提供している。Nitroは、仮想サーバー「Amazon EC2」などの性能とセキュリティを大きく向上させている。AWSを利用する顧客は、Nitroにより機密性の高いワークロードを安全に運用でき、世界水準のセキュリティ基盤を利用できるようになっているという。

Nitroによって安全性の高いワークロードを実行できる
Nitroによって安全性の高いワークロードを実行できる

 また、アクティブ防御システム「Sonaris」では、年間2兆7000億件のEC2への脆弱(ぜいじゃく)性スキャン攻撃を阻止している。DDoS攻撃防御システム「AWS Shield」は99%のDDoS攻撃を自動で軽減しているという。

生成AIの開発・活用支援

 AWSがAccess Partnershipに委託した生成AIに関する調査「Generative AI Adoption Index」では、82%の組織が生成AIツールを採用しており、そのうち36%の組織は実証実験を経て業務への統合を進めている。さらに、55%の組織が「Chief AI Officer(CAIO)」を設置しており、来年の計画を含めると84%の組織が設置を決めている。

 AWSは、日本企業の積極的な挑戦を支援するため、日本での生成AIサービスの展開に注力している。既に東京と大阪リージョンで提供を開始している生成AIサービス「Amazon Bedrock」や、同社が開発した基盤モデル「Amazon Nova」は、東京を含むアジア太平洋地域におけるクロスリージョンでの推論をサポートし、速くて安定したAI体験を可能にしている。また、ソフトウェア開発と運用のライフサイクル全体を支援するAIアシスタント「Amazon Q Developer」の日本語対応も行った。

 生成AIの実用化を加速するため、6月からEC2におけるGPU搭載のインスタンスの値段を最大45%下げた。また、「P5インスタンスファミリー」のオンデマンド利用を東京を含む複数のリージョンで利用できるようになり、必要な時だけGPUリソースを利用できるようになった。

 AWSジャパンは、「LLM開発支援プログラム」や「生成AI実用化推進プログラム」を通して、国内の生成AI開発の実用化を進めている。4月には生成AI実用化推進プログラムの新しいコースとして、戦略策定から支援する「戦略プランニングコース」を提供。既に200以上の企業が参加し、具体的な成果が創出されているという。

 さらなる価値創造を支援するため、「モデルカスタマイズコース」に社会実装と開発力強化を目指す懸賞金型プロジェクト「GENIAC-PRIZE」への応募者を支援するプランと、「モデル活用コース」にエージェンティックAIの実用化を推進するプランの追加を発表した。エージェンティックAIの実用化推進プランでは、AWSおよびAWSパートナーが連携し、システム設計やマルチエージェント構築、セキュリティ対策、データプライバシー保護、パフォーマンス最適化、既存システムとの統合、運用管理の自動化まで、実用化に向けた包括的な支援を提供するとしている。

生成 AI 実用化推進プログラムの内容
生成 AI 実用化推進プログラムの内容

ビルダーの育成

 白幡氏は、最先端のテクノロジーやインフラを活用して価値創出する「人(ビルダー)」こそが変革の本質だとし、AWSジャパンでは全国でビルダーを育成する取り組みを強化している。ITの知識に加えて、挑戦するマインドセットを持つビルダーを各地で育成するという。

 6月25日には、AI・数理データサイエンス人材育成の拠点校となる旭川工業高等専門学校(旭川高専)および富山高等専門学校(富山高専)とAWSジャパンが包括連携協定を締結したことを発表した。この協定は、地域創生実現に向けたデジタルやAI人材育成を行う。具体的には、AWSのクラウド技術教育の提供や、AWSの体験ハンズオンイベントなどの実践的な技術体験の提供、産学連携による技術開発・研究の推進などを行うとしている。

左から、AWSジャパン 代表執行役員社長の白幡晶彦氏、富山高等専門学校 校長の國枝佳明氏、旭川工業高等専門学校 校長の矢久保考介氏、AWSジャパン 常務執行役員 パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮氏
左から、AWSジャパン 代表執行役員社長の白幡晶彦氏、富山高等専門学校 校長の國枝佳明氏、旭川工業高等専門学校 校長の矢久保考介氏、AWSジャパン 常務執行役員 パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮氏

 ほかにも、長期的なビルダー育成に向けて「地域創生・社会課題解決AIプログラミングコンテスト」の全国展開や、小学生・中学生が最新技術に触れる場である「Amazon Think Big Space」の国内2カ所目の拠点を5月に展開している。

 同氏は地域創生にこだわる理由として「イノベーションは一極集中では生まれない。各地で育ったビルダーが各地域の課題を解決し、新たな価値を創造し、その積み重ねが真の意味での社会変革につながると信じている」と説明した。

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