MCデジタル・リアルティは6月26日、「AI時代のデータセンタートレンドとエコシステム拡大に向けた取り組み」をテーマに説明会を開催した。2025年上半期のデータセンター業界におけるトレンドや今後の展望などについて話した。
同社は2017年に三菱商事と米国のDigital Realty Trust(Digital Realty)による合弁会社として設立。三菱商事が持つIT、不動産、インフラなどの知見とDigital Realtyのデータセンター運用ノウハウを強みに、首都圏や関西を中心として複数のデータセンターを運営している。
なぜ今水冷方式が必要とされているのか
MCデジタル・リアルティ ソリューションアーキテクトの丁硯冬氏は、データセンター業界の主要なトレンドとして、(1)AIの加速、(2)水冷の加速、(3)事業者間連携の加速――の3つを挙げる。

MCデジタル・リアルティ ソリューションアーキテクトの丁硯冬氏
丁氏は「『ChatGPT』の登場以来、AIは私たちの生活に深く浸透し、個人利用だけでなく企業の導入も急速に進んでいる。テキスト生成から画像・音声・動画生成へとマルチモーダルAIが普及し、さらにAIエージェントの登場により、AIはデジタル秘書のような存在へと進化した」と生成AIにおける現状を説明する。
日本情報経済社会推進協会の調査によると、既に45%が生成AIを導入し、事務業務においては8割以上が効果を実感しているとのこと。「自動運転や創薬、デジタルツインなど、さまざまな社会課題解決へのAI活用が進む中、AI開発の競争も激化。スピードと性能に差をつけるには、高性能ハードウェアを活用した計算リソースの確保が不可欠となっている」と、AIの加速について話す。
AIの加速に合わせて増大しているのが、ハードウェアの消費電力と発熱量だ。丁氏は「空冷の限界が明確になり、水冷への移行は急務」とし、2017年当時3.5kWだったNVIDIA「DGX-1」の消費電力が、2020年の「DGX A100」では6.5kW、2024年の「DGX H100」では10.2kWになり、2025年の「GB200 NVL72」では132kWにまで増えていることを示し、「空冷の限界に達していて、水冷でないと冷やせない領域に突入してきた」(丁氏)と現状を指摘する。

最大消費電力の推移
同社でも、2025年に入り水冷対応に関する問い合わせが急増しているとのこと。ほかのデータセンター事業者もAI対応、水冷対応を急ぐ中、「これからは、水冷へのスピード対応ができるかどうかで差別化されていく時代になるだろう」(丁氏)とスピードの重要性を説いた。
サーバーにおける発熱の元になっているのは、CPU、GPU、メモリー、ネットワーク、ストレージなど。これらのデバイスの消費電力が急激に増えており、CPUは以前1枚当たり200W以下だった消費電力が現在では約300Wに、現行で700Wを超えると言われるGPUは、次世代モデルにおいて1kWに達するとみられている。

発熱の元になっているのは、CPU、GPU、メモリー、ネットワーク、ストレージなど
丁氏は「GPUサーバー1台当たりの消費電力は10kWを超えてくる」とし、水冷について説明。水冷には「Direct Liquid Cooling (DLC)」、「Rear Door Heat Exchanger(RDHx)」、「液浸」の3つの方式がある。
DLCは冷却液を使って直接CPUとGPUを冷やす方法で、サーバーの中に冷却プレートを取り付け、そこに冷却水を流して熱を吸収し、外に出すという仕組み。熱を吸収後、温水を回収して冷やすCDU(Cooling Distribution Unit)が冷却水のコントロールや流れを制御し、効率的に運用できる。
ファンの音もなく、電力効率も高いため、現在多くのデータセンター事業者が採用を進めている冷却方式になるという。
一方、リアドア熱交換方式であるRDHxは、ラックサーバーの後ろ扉に冷却機能を持たせたもの。サーバーから出てきた熱い空気をそこで冷やすため、その場で熱を回収できることが特徴。ラック内の装置は既存のサーバーでも使用できるため、システム構成にも大きな変更を加えずにできるというメリットもある。
液浸方式は、サーバー丸ごとを冷却液に浸して冷やす方法だ。使用する液体は絶縁性のある特殊なものを使うことで、ショートなどの電気的な問題は起きない。サーバーの部品の隅々まで効率よく冷却できるのが最大の特徴だが、運用管理の経験不足や導入コストが高いといった課題もあるという。
丁氏は「最も効率が良い冷却方式は液浸で、次いで高いのがDLC。コスト面を考えると、DLC方式も液浸もサーバーレベルでの専門設計が必要になるが、RDHx方式は空冷設備のまま利用できるため、導入コストメリットがある。メンテナンスのしやすさもRDHx方式が優れる。液浸は冷媒が満たされた環境での作業になるため、メンテナンスの難易度も高い」と各方式のメリット、デメリットを明かした。
DLC方式は、現在多くの高性能コンピューターに対応され、RDHxは既存システムの後付けで水冷を導入するケースに対応しているとのこと。液浸対応に関しては課題もあるため、現時点での導入事例は少ないが、今後開発と実証が進んでいくと見られるとのことだ。

水冷システムの種類
3つ目のトレンドとして挙げた事業者間連携の加速については、ハードウェア企業、ネットワークサービスプロバイダー、非IT企業の3つを紹介した。
ハードウェア企業は、AIの普及により、GPUやCPUメーカーなどの高性能ハードウェア需要の急速な増加に伴い、データセンター全体の電力効率や冷却の最適化など、インフラ設計の見直しが進んでいることに言及。「半導体不足や地政学リスクを背景にして、サプライチェーンの安定化も重要となり、ハードウェアメーカーとしてはデータセンター事業者と密に連携することが重要」(丁氏)とした。
一方、データセンターとの連携により「多くの課題を容易に解決できる」と説明したのがネットワークサービスプロバイダーだ。大量のデータを取り扱う同事業は、AI開発後の推論や後処理においても低遅延、高速でのデータ処理が求められるとのこと。この悩みを解決できるのがデータセンターと位置付ける。
一見、連携度合いが低いように感じる非IT企業については、「企業におけるAIの活用が進む中、非IT企業のデータセンターへの参入が急増している」(丁氏)との現状に触れ、「お客さまご自身でデータセンターを調達するよりも、データセンター事業者と連携することで、これらの課題解決につながる」とした。
丁氏は、AI活用の加速によりデータセンターの重要性が高まっていると現状認識を示した上で、水冷対応の有無によってデータセンターのすみ分けが進んでいること、加えて事業者間の連携がデータセンターのエコシステムを左右するなど、データセンターを取り巻く環境について説明した。