レッドハット、2025年度の事業戦略を説明--ビジネスとテクノロジーをつなぐ架け橋

藤本和彦 (編集部)

2025-07-02 13:34

 レッドハットは7月1日、2025年度の事業戦略説明会を開催した。代表取締役社長の三浦美穂氏は冒頭で、オープンハイブリッドクラウドが引き続き成長を続けていると述べ、2024年度の売上高がグローバルで11.4%増加したことを説明した。その上で、「日本はその数字以上の成長を遂げており、大変堅調な1年を達成できた」と総括した。

 同社の事業は現在、「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」「Red Hat OpenShift」「Red Hat Ansible Automation Platform」「Red Hat AI」という4つの柱で構成されている。

 RHELは同社製品群の中でも基盤を支えるOSであり、グローバル市場では堅調に8%の成長を遂げた。日本国内でも2桁の成長を記録しており、安定した伸びを示している。三浦氏が「成長分野」として強調しているのが、OpenShiftとAnsibleである。これらもグローバルで2桁成長を達成しており、著しい成長を遂げている状況である。Red Hat AIは現時点では事業規模が小さいものの、「成長の大きなけん引役」となっている。

 日本の顧客企業にとって、次世代の仮想化環境をどのように進めるかが重要な議論となっている。そんな中、「Red Hat OpenShift Virtualization Engine」は前年と比較して2.8倍の成長を遂げており、急成長を遂げている分野である。ただし、「仮想化はシステム基盤に関わる領域であるため、すぐに更改することは難しい」と三浦氏は説明。その上で、日本の顧客企業は特に慎重な姿勢を取っており、2年後、3年後の次期プラットフォームに向けた検証や実証を開始している段階であるとした。

レッドハット 代表取締役社長の三浦美穂氏
レッドハット 代表取締役社長の三浦美穂氏

 RHELの最新版である「Red Hat Enterprise Linux 10」には、「10年に1度のジャンプに相当する」(三浦氏)という大幅な機能強化が施されている。中でも最も顕著な点は、OSの更新やパッチ適用の負担を軽減する「イメージモード」と呼ばれる技術の採用である。さらに、OSの運用・管理・保守を飛躍的に改善する新機能も発表されている。

 新しい動きとして、車載OSである「Red Hat In-Vehicle Operating System」が、5月に業界の安全機能標準「ISO 26262」のASIL B認定を取得した。これまで自動車業界では、特定のハードウェアとOSを搭載することで安全性を確保してきたが、Software Defined Vehicle(SDV)の開発が進むにつれて、オープンソースの活用も検討されるようになっているという。

 日本での事業展開についてはまず、同社のオープンソース技術が社会基盤を支えるソフトウェアとして深く浸透していることを挙げた。RHELをはじめ、AnsibleやOpenShiftなども今では金融業、通信業、医療分野といった社会インフラの根幹を担う分野で広く活用されているという。

 レッドハットは2024年の戦略説明会で、「時代に合ったプラットフォームを提供する企業」であることを強調した。仮想化OSからクラウドネイティブ、AIネイティブへと移行する中で、各時代に適した基盤技術を提供してきたと三浦氏は説明。今後もその姿勢を維持し、技術の進化に対応する方針を示した。

 この戦略に沿って、OpenShiftを中心としたプラットフォームはすでに社会インフラとして定着しつつある。一方で、技術の進化に伴い、組織内での「壁」も顕在化してきた。例えば、従来のLinux管理チームと、コンテナー技術を活用する開発チームとの間では、文化やプロセスの違いによる摩擦が生じているという。また、AIの活用がIT部門を超えて業務部門(LOB)主導で進むケースも増加しており、企業のITガバナンスに新たな課題をもたらしている。

 三浦氏は、今後の技術の進化を「縦割り」ではなく“ミルフィーユ”のように「積み重ねた」構造として捉える新たな視点を提示した。仮想化技術が依然として活用可能な基盤として存在し、その上にクラウドネイティブ技術、さらにAI技術が順次積み重なっていく。各層は統合的に管理・活用されるべきものであり、同社はその全体を支えるプラットフォームを提供していく。

“ミルフィーユ”のように「積み重ねた」構造を
“ミルフィーユ”のように「積み重ねた」構造を

 また、AIモデルの選択肢が急速に増える中で、顧客が新しいモデルを柔軟に取り込み、業務に活用できるプラットフォームの整備が不可欠だと強調。特に、AIの学習フェーズから推論フェーズへの技術的シフトが進んでおり、すでに学習済みの高性能モデルを業務に実装する動きが加速していると指摘している。

 そうしたニーズに対応するため、同社はAI推論に特化した新製品「Red Hat AI Inference Server」を発表した。これは、2024年に買収したオープンソース企業Neural Magicの技術をベースに製品化されたもので、推論性能を維持しながらCPUやメモリーなどのコンピューティングリソースコストを最大50%削減することに成功したという。

レッドハットのAI戦略
レッドハットのAI戦略

 三浦氏は、Red Hat AI Inference Serverの主な特徴として次の3点を挙げた。第一に、優れたコスト効率と高性能を両立する点である。第二に、OpenShiftを基盤とすることで、既存のITインフラ上にシームレスに展開できる柔軟性を備えている点だ。第三に、オープンソースであることから、さまざまな言語モデルやアクセラレーター、プラットフォームとの間で高い互換性を持つ点である。

 AI分野では、NVIDIAをはじめとする各社が独自のGPUやアクセラレーターを展開し、Intel、Advanced Micro Devices(AMD)、Amazon Web Services(AWS)なども台頭している。レッドハットは、こうした多様なハードウェアとの連携を可能にするオープンなプラットフォームを提供することで、ユーザーが特定のベンダーに縛られることなくAIインフラを構築できるよう支援する。

 「レッドハットの最終的な目的は、顧客のビジネスに貢献することである。顧客にテクノロジーを最大限活用してもらうための架け橋として、あらゆるオープンソース技術を柔軟に提供していく。これが2025年全体の戦略である」(三浦氏)

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