パナソニック ホールディングス DX・CPS本部 デジタル・AI技術センターは、2025年度から、「現場CPS2.0」の取り組みを開始する。AIエージェントなどの活用により、従来の「現場CPS1.0」のコンセプトを大きく進化させ、製造現場を中心にした労働の効率化と、質の向上を図ることになる。
従来の製造現場では、基幹システムからの指示情報を基に、属人的なノウハウを活用しながら、人が生産計画を現場に落とし込み、それによって作業が進められていた。パナソニック ホールディングスでは、これを解決することを目指し、「現場CPS1.0」をコンセプトとした、サイバーフィジカルシステム(CPS)ソリューションを提案してきた経緯がある。既に、パナソニック コネクトを通じて、社内外を含めて116現場での導入が進んでいるという。
現場CPS1.0では、現場を、究極まで整流化することで、市場変化に柔軟に対応できる現場の構築を目指しており、「現場の人およびモノの流れの可視化」「作業標準化および平準化による計画遵守」「Blue YonderやSAP、Oracleなどの上空システムとの連携による経営資源の最適化」「利益最大化に向けたプロセスの再構築」の4つのポイントで現場の改善を図っている。

「現場CPS1.0」
現場CPS化キットを活用することで、製造現場にカメラやセンサーを配置。これらの機器は、数時間で配置できるため、人やモノの流れを把握するためのデータがすぐに収集できるようになり、わずか1日で現場の可視化が進められると語る。
現場CPS化キットで現場を撮影し、そのデータを基に、クラウドを通じてハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を活用した超高速AI学習のほか、超軽量のカメラAI技術、超精密確率モデルにより、リアルタイムで稼働実績を分析。ダッシュボードで可視化して、現場の無駄を抽出できるほか、可視化した現場データを基に、数理モデルを用いた計画・編成シミュレーションによって、経営戦略を提案。属人的な対応をCPSで補完し、現場のデジタル化を支援することができるという。
「他社のソリューションの場合、AI活用まで約1カ月を要するが、現場CPS化キットにより、1日で現場の全てを可視化できる。1台のPCで、20台のカメラを管理し、500平方mの範囲をカバーできるため、設置コストを大幅削減できる。現場の可視化と現場の最適化を進めることができ、人による自力の改善からも脱却できる」とする。
現場CPS1.0によるCPSソリューションの経営効果にも触れ、社内工場の組み立て工程では作業効率が17%向上し、1人当たりの生産性は1.5倍に上昇。別の社内工場では実装工程における稼働率が14%向上し、仕掛在庫の削減により、1億5000万円のキャッシュフローの改善を達成したという。さらに別の社内工場の源泉・組み立て工程においては、製造効率の向上により、年間2億円の売上増加に貢献し、計画策定時間を85%短縮できたという。
こうした経験を基に、2025年度から取り組んでいるのが、「現場CPS2.0」である。
現場CPS2.0のビジョンとして、「人と現場を支え、働く時間の質を革新し、生産性と創造性を飛躍的に向上させる」ことを掲げ、ミッションとして、「変化に柔軟かつ高速に対応する次世代CPSを通じ、働く時間の最適化と価値創出の加速を実現する」ことを打ち出している。
CPS2.0では業務プロセスを設計段階から見直し、AI活用を促進
現場CPS1.0では、現場の標準化や「カイゼン」にフォーカスしていたが、現場CPS2.0では、業務プロセスを設計段階から見直すことに焦点を当て、AIの活用をさらに促進する。

「現場CPS2.0」(超効率化)
従来は、組み立て工程や実装工程などの一部工程での可視化にとどまっていたが、工程間での連携や、設計部門と製造現場とのデータ連携などにも乗り出す。
「最適化や自動化だけでは、効率化には限界がある。設計までさかのぼり、プロセス全体の標準化、最適化、自動化を進めることで、カイゼンを超えた業務プロセスの再構築が可能になり、真の効率化が実現できる」と語る。
実績データだけでなく、設計データも活用しながら、現場AIシミュレーションによって、プロセスを設計までさかのぼり、現場全体を標準化、最適化するのに加えて、現場適応型エージェントにより、現場の切れ目を解消し、オペレーション革新にもつなげ、人とロボットが共生した現場の自動化を図るという。
現場適応型エージェントでは、カイゼン、計画、保守、安全、異常、コスト、やりがいといったように、それぞれに特化したAIエージェントを用意。現場ごとの特性に合わせて、エージェントを組み合わせて利用することができる。
例えば、実装工程でトラブルが発生し、設備が停止した際に、カメラ映像などを基に、停止した設備の前に、人が駆け付けたことをAIが判断。同時に、作業推定エージェントと要因推定エージェントが、トラブルの要因になった部分を特定する。部品を持ち上げる吸着にエラーが発生したことが分かると、過去のトラブルの発生データの蓄積を基に、対策エージェントが複数の対策方法を提案し、作業者はそこで判断したり、作業指示をもとに、現場で解決を図ったりできるという仕組みだ。

「現場CPS2.0」の実装例
「習熟度が低い担当者でも、現場での対応が可能になる」という。
さらに、現場CPS2.0では、安全管理の領域にも踏み出す。
パナソニックグループでの重点的な取り組みと、現場の課題を踏まえ、現場での自律的な安全活動を支援する「労災未然防止支援ツール」を提供し、リスクの可視化、分析、フィードバックを実現するなど、安全安心オペレーションに対する支援も行う。
ここでは、「危険察知/安全リスク24H可視化ソリューション」を提供する。安全作業手順の実施実績をカメラ画像から自動判定して、24時間を通じて、安全リスクを可視化。危険性などが確認された場合には、管理者や作業者に通知して、安全作業手順の再確認やカイゼン活動、個別教育などを行い、労災防止活動を支援する。

「危険察知/安全リスク24H可視化ソリューション」
「クレーン作業において、重量物や金属コイルなどの危険物と、作業員の距離が近いことなどを画像から判断し、リスクの把握や安全活動で活用するほか、前屈作業が多い場合なども腰への負担が懸念されるため、作業方法の改善を促すことになる。作業者への通知により、自律的な作業改善などにもつなげることができる」という。
一方で、現場マネージャーと現場作業者による1対1の会話記録から、マイクロアグレッション(悪意のない攻撃)を検知して、フィードバックやアドバイスを提供するAIを開発していることも明らかにした。
「セルフケアAI」と呼ぶもので、会話記録を分析して、発言の意図を尊重しながらも、なぜその表現がマイクロアグレッションとなり得るのかといったことを、社会的背景を踏まえてアドバイスするほか、AIとの対話を通じて、分析結果をより深く理解することもできる。
「意図せずにジェンダーバイアス(男性/女性という性別に対する思い込み)や外国人差別の発言をしていることを指摘し、どう言えば、配慮や心配の気持ちを誤解なく伝えられるのかといった気付きを与え、実践に生かすための具体的な提案も行う。忙しさとDEI(多様性・公平性・包括性)推進の板挟みにあるマネージャーに寄り添うことができる」という。
パナソニックグループが蓄積したDEI推進に関するデータを基にAIを開発しており、社内のDEI研修にセルフケアAIを活用したところ、体験者の90%が理解に役立ったと回答しているという。
パナソニック ホールディングスでは、「製造現場での実績を生かして、さまざまな働く場所へも展開していくことになる。現場の状況をデジタル化し、それをAIが解釈し、業務のカイゼンや人の働き方のアップデートを支援する」としたほか、「現場CPS2.0は、パナソニック コネクトと連携しながら、2025年度以降に、一部商品化していくことになる。Blue Yonderとの連携もさらに深めていくことになる」としている。