本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NTTデータ 代表取締役社長の鈴木正範氏と、AWS Amazon ConnectディレクターのKevan Mah氏の「明言」を紹介する。
「これからはAIがビジネスモデルの転換を促すことになる」
(NTTデータ 代表取締役社長の鈴木正範氏)

NTTデータ 代表取締役社長の鈴木正範氏
NTTデータグループの国内事業会社であるNTTデータの社長に6月9日付で就任した鈴木氏は、同社が先頃開いた新社長就任会見の質疑応答で、ビジネスモデルの転換について聞いた筆者の質問に、上記のように答えた。従来のシステムインテグレーション(SI)からサービス提供型へのビジネスモデル転換について聞いたつもりだったが、その話の先に出てきたAIのインパクトの認識が興味深かったので、明言として取り上げた。
鈴木氏は1988年にNTTへ入社。同年に発足したNTTデータに移り、金融分野を長く担当し、取締役常務執行役員を歴任した。2023年の同社再編に伴って国内事業会社の取締役副社長執行役員に就いていた。
国内事業における2025年3月期の売上高は1兆9332億円と、ほぼ2兆円規模。鈴木氏は図1を示しながら、「デジタル技術の進展によって、2015年ごろから成長率が上がっている」として、「引き続き、さらなる成長を目指していきたい」と力を込めた。

(図1)日本事業における売上高の推移(出典:NTTデータの会見資料)
事業戦略については、これまでの「提言・実装・成果モデル」を踏襲し、「さらに徹底して実行するフェーズに引き上げたい」とのこと。このモデルは「明確な“成果”を見据えた“提言”を行い、言ったことはしっかりと“実装”する」という意味だ。この流れを円滑に進めるため、提言に向けて「コンサルティング力の強化」、実装に向けて「エンジニアリング力の強化」を一層図っていく構えだ。

(図2)「提言・実装・成果モデル」の概要(出典:NTTデータの会見資料)
鈴木氏はさらに、このモデルで今後重要な取り組みとして「AI技術を最大限活用すること」を挙げた。図2の中央に記されているのは、そのためだ。
鈴木氏の話を聞いていると、デジタル分野の動きに気を取られてしまうが、国内事業会社としての最大の課題は、旧態依然とした人月モデルのSI事業の割合がまだまだ大きく、同社自身もかねて取り組んでいるサービス提供型のビジネスモデルへの転換が進んでいないことだというのが、筆者の見立てだ。果たして、新社長はこの点について、どれほどの問題意識を持ち、転換を力強く進めるつもりがあるのか。会見の質疑応答で聞いてみたところ、鈴木氏は次のように答えた。
「従来のSIからサービス提供型へのビジネスモデルの転換はしっかりと進めていきたいし、進めて行けると思っている。私は金融分野でSI事業に携わってきたが、そうした中でも例えば『地銀共同センター』プロジェクトは典型的なサービス提供型であり、今後はさまざまな分野でこうしたサービスへのニーズが高まってくるだろうと実感している。ただ、SIにおけるモノ作りの力は今後も継続して磨いていくべきだと考えている」
その上で、こう続けた。
「ビジネスモデルの転換としてSIからサービスへという話をしてきたが、これからはSIにもサービスにも大きな影響を及ぼすであろうAIがビジネスモデルの転換を促すことになるだろう。ただし、現時点ではAIによってどのようなビジネスモデルになるのか、見通せないところがあるので、当社としては引き続き、提言・実装・成果モデルを展開しながら、AIを取り入れたビジネスモデルをお客さまと一緒になって創っていきたいと考えている」
冒頭の明言はこの発言から抜粋したものである。おそらく全ての分野に通じることだろう。ひょっとしたら、ビジネスモデルという表現さえも変わっていくかもしれない。恐れるのではなく、ワクワクしながら取り組んでいきたいものである。
話がAIの方へ行ってしまったが、そう考えるきっかけを与えてくれた鈴木氏の経営手腕に大いに注目していきたい。