映画館の不況は料金ではなく「没入体験の危機」

ビジスパ事務局 2011-03-10 09:00:00

1月に発表され、映画興行界に衝撃を与えたのが『TOHOシネマズの料金の値下げ』。リリースでは「一般料金1,800円を1,500円に値下げ」とする。さらに実質的には、ネット予約と同館の会員割引でマイナス300円、つまり一般料金は1,200円になる。

また配給会社の東映では、今夏公開する映画2作品を1,000円で公開するという発表もあった。映画興行もデフレの時代に入ったようだ。

だが300円引き、果たして安いのか?まず映画の市場動向を見てみよう。

画像
(出典 : http://www.eiren.org/toukei/data.html

映画製作連盟の統計を概観すると、「シネコンの増加」「入場者数の増加」「邦画シェアアップ」そして「料金は横ばい」。お客は増えたが、入る映画は偏り、公開本数は減少。シネコンの増加でスクリーン数は増えたものの、単館や個性的な映画館の閉鎖は目立つ。

映画関係者の不安はむしろ地デジの普及や、iTunes等でのネットレンタルの本格化だ。映画館の競合相手は家庭の無料映画や、PCのネットレンタル500円映画となる。

だからこそ先手を打つ値下げなのだが、統計にもあるように映画料金は今や平均1,200円台(名画座や1,000円デイを含む)。すでに結構下がっている。TOHOの場合、ファーストデイ(毎月1日)やレディスデイは1,000円、レイトショー1,200円、夫婦50割引は2,000円(2人)、シネマイレージデイは1,300円など、割引適用は多い。一方ヒットが狙える3D映画では、3D割り増し料金として400円アップ。

つまり値下げは話題づくりで、実際には平均単価据え置きで収益確保。下げておいて上げて、中小映画館や単館映画館から顧客を奪取する。これが大手シネコンの料金戦略の本音である。

映画が高いのではなく映画館という体験が高い
だがTOHOの発表について消費者はどう感じただろうか?発表後に行われた2つのアンケートの結果を見よう。

株式会社アイシェアが実施した調査(シネコン映画鑑賞経験者284名)では、料金の引き下げは歓迎だが、1,500円になって映画を観に行く回数が増えるか?との問いには「とても増える」はわずか5%程度、「少し増える」が半数という結果。「幾らが理想か?」の問いには1,000円以下となった。iMiリサーチバンクが実施した有効回答数 1200人のネット調査でも、「来場頻度が増える」は26%、「変わらない」は55%だった。300円では大したこと無い、という意識がある。

国際的に見て日本の映画料金は高いのか?映画先進国の米国の劇場オーナー協会の調査では、2010年の米国の平均映画料金は7.89ドル(約650円)と日本の半分以下。だがニューヨーク辺りでは15ドル以上の映画もあるので、実質的には10ドル程度が相場と見られる(約800円)。だとすると日本は確かにまだ高い。

だがぼくは日本の消費者が高いというのは、「映画館という体験」に料金が見合っていないと言っているように思う。

映画館は楽しくない
ユーザー体験としての映画館は「賭けの要素」がいっぱいなのだ。2010年12月の「映画館でイチバン許せない観客の行為は?」アンケートにはうなずいた。

1位 おしゃべり  173票 (17.3%)
2位 ケータイの電源を切らない  140票 (14%)
3位 赤ちゃん・子どもの泣き声  126票 (12.6%)
4位 椅子を蹴ってくる  115票 (11.5%)
5位 前席の人の頭が邪魔  105票 (10.5%)

以下「イチャつくカップル 49票」「口臭・体臭・おなら 40票」「咳・くしゃみが激しい 37票」「臭いがキツイ飲食 36票」「ひじかけを独占する 33票」

ぼくは「頭がデカイ」ヤツの後ろに座るのだけは避けたい。咳もいやだ。前と隣にイヤなヤツがいないこと、お作法が良い人を祈るしかない。まさに「運・不運」。映画館はそれを保証してくれないのに1,800円取るなら家でネットで観るよ、ポップコーンだって安いから、となる。映画ではなく映画館がむしろ問題なのである。

映画館という体験ビジネスの衰退
比較してスポーツ観戦は羽目を外せる。サッカーや野球にはバーやバーベキューを楽しめる席もある。サッカーではスタジアム脇に屋台が出て、観戦前のひと時サポーター同士がエールを交換する。大相撲には枡席もある。だが映画館は「静かにじっと耐えて観る」のだ。果たして娯楽だろうか?

かつてそれもまた映画のうち、ではあった。シートがボロくて尻が痛くても、腰がこわばっても、感動したくて通った。映画が終わり外に一歩出ると、任侠映画なら繁華街を肩を切って歩き、シリアスな恋愛ものなら空を見上げて涙を隠した。あの映画のあのシーンを決して忘れないぞ、と思ったのは、大抵場末の名画座だった。

だが今は違う。みんなと一緒に「没入体験」に浸ることの価値が低下した。携帯やゲーム機という好きな時にチェックして、好きな時につながるのが普通だ。没入体験はツィートした瞬間で終わる。映画館に浸らない消費者たち。衰退の真の原因はここにあるとぼくは思う。

郷 好文
経営コンサルタント、新規事業の企画・開発者、マーケティングリサーチャーとして、<商品の本質、消費の本質>を追求。中小企業や起業する方、大きな会社の小さな事業を鮮烈な発想で支援している。ビジネスエッセイ多数発表。中小企業診断士。ビジスパではメルマガ「ことばのデザイナーのマーケティングレシピ - 消費の本ナマをえぐる -」を執筆中。
3月23日、ビジスパとプレジデント社の共催セミナー【これからを生き抜く力~経営戦略・マーケティングに強くなる~】で講演予定。

※この記事は有料メルマガ配信サービス「ビジスパ」で配信されたメルマガの中から選んだコンテンツをお届けしています。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

3件のコメント
  • まに

    結局は、日本国内での興行しか想定していないから、1000円以下には下げられないという事。そして、興行トップ10にアニメが半分以上入る現状をみても、結局、映画は投資としてしか無くなってきる。
    黒澤監督は、海外の記者に「なぜ、日本には、クロサワ、ミゾグチ、ナルせ、オズと同時期にこれだけの監督が誕生したのか?」と聞かれたときに、「監督が作りたい作品を作っているから」とだけ言った。この活動屋精神をもう一度取り戻して欲しい。
    犬童とか、篠原とか、中村とかもう止めてよ。

    2011年04月25日

  • shi-na

    私が中学・高校の頃(もう20年以上まえですが)、映画は同時上映ありで一日中いても1200円だった(大人は1500円だった気がします)。見たい映画をみて、同時上映をみて、もう一度見たい映画を観るという、映画館に4・5時間いたものです。まさに娯楽ですよね。いまは一本きりで総入れ替え。
    液晶テレビ化も進み、家庭のテレビも40インチ以上、デジタル表示で画面は鮮明。ちょっと資金があれば5.1ch、7.1chの音場も作れる時代。最新映画も半年後にはブルーレイ、DVD化されるのがあたりまえ、家庭の映像環境が充実したから、映画館に足を運ぶまでもないんでしょう、なにせ家庭はプライベートシアターですから。
    映画館は画面が大きいだけになってますよね(投影方式で画質粗いし)。映画館は今のように映像流すだけ体験でない、プレミアムな高付加価値がなければ、衰退する一方なのでしょう。

    2011年03月11日

  • noborinnn

    ミニシアターが消えたのは日本じゃメインになってない外国のドキュメンタリとかもってきたりして、全然観に行く気がしないというのと、アメリカの膨張主義が停止したことからくる映像背景の減退、倫理強化からくる堅苦しさというところでしょうか? 1200円ぐらいにさげてもらえるとうれしいです

    2011年03月10日