「答えるべき問い」を自ら設定する能力と勇気

ビジスパ事務局 2011-04-20 09:00:00

私が、アクセンチュアの戦略グループ在籍時、まだマネジャーになるかならないかの頃、尊敬する大先輩に言われた言葉。

「経営者と1時間フリーディスカッションができてはじめて、一人前の戦略コンサルタントだ。」

数年後、とある大手食品会社の経営企画担当役員からRFP(Request for Proposal:提案依頼)をいただいた時の話です。

「弊社の次期中期計画の柱のひとつがSCM/ロジスティクス戦略です。けれど、お恥ずかしい話ながら、弊社はSCM/ロジスティクス戦略について知見を持ち合わせていません。ついては、食品業界のSCM/ロジスティクス動向を踏まえ、弊社のあるべき戦略について提案して欲しい。」

その担当役員がおっしゃるには、今回の提案は戦略ファーム数社のコンペ形式で、プレゼンテーションには創業家オーナー経営者も出席する、とのことでした。当時、まだ30歳そこそこだった私は、クライアント企業に関する徹底した情報収集と分析はもちろんのこと、食品業界におけるグローバル先進企業の最新事例も徹底的にインプットし、渾身の提案書を書きあげ、気合満点のプレゼンテーションを行ったのです。

甲斐あって、担当役員との議論や質疑応答も盛り上がり、なかなかの好感触でした。
にも関わらず、結果は落選。
何故?後から思えば、最後に一言、経営者から問いかけられた一言(だけ)が本質でした。

「非常に参考になるプレゼンテーションをありがとうございました。御社がこの領域に豊富な経験と知見をお持ちだということがよくわかりました。」
「ところでおかしなことをお聞きするようですが、弊社にとってSCM/ロジスティクス戦略はどれほど重要なことだとお考えになりますか?」

そう、SCM/ロジスティクス戦略が本当に今「答えるべき問い」なのかどうか、本当は今もっと違うことに資源配分すべきなのでは、に、経営者は悩んでいたのです。「与えられた問いが『真の問い』であるとは限らない」とか、「クライアント企業より1段高い視座からモノゴトを捉えなければならない」とか、新入社員に偉そうに語っているくせに、翻って自分はこの有り様。

「経営者と1時間フリーディスカッションができてはじめて、一人前の戦略コンサルタントだ。」という大先輩の言葉を思い出し、1時間のディスカッションパートナーどころか、経営者の放った一言すら拾いきれなかった自分を猛烈に反省しました。

ちなみに、このコンペに勝った戦略ファームは、「今、本当に必要なのは営業戦略の再構築です」と提案したそうです。半年後、そのクライアント企業の営業組織再編記事が日経に載っていました。完敗でした。

戦略コンサルタントたるもの、常に「クライアント・インタレスト・ファースト(顧客利益第一)」。中長期観点から、クライアント企業の継続的な利益創出を最優先に考えることを求められます。クライアント企業には今何が最も必要なのか、それをとことん突き詰めて考え、提言しなければならないのです。

ビジネススクールで教鞭をとって早10年超。3,000名程度の学生と接してきましたが、ときどきふと不安を感じることがあります。ビジネススクールでどれほど数多くのケース演習を重ねたところで、与えられた問いに答える訓練を繰り返すだけでは、残念ながら、永遠に視座は高まりません。「答えるべき問い」そのものを自ら設定する能力と勇気を磨きましょう。

田村 誠一
東京大学経済学部経済学科卒業。ノースウェスタン大学経営大学院アドバンスド・ビジネス・マネジメント・プログラム(ABMP)修了。アクセンチュア株式会社において、約18年間、戦略コンサルタントとして活動。経営コンサルティング本部戦略グループ製造・流通セグメント統括、製造・流通本部運輸・旅行業セグメント統括等を歴任。40社超の企業に対し、全社戦略・事業戦略立案、M&A支援、バリューチェーン再構築、マーケティングCRM戦略立案、R&D改革等を支援。現在、株式会社企業再生支援機構 マネージング・ディレクター。グロービス経営大学院教授。K.I.T.虎ノ門大学院客員教授。石川県ニッチトップ企業等育成事業スーパーアドバイザー。共著書に、『一流の思考力』(東洋経済新報社)等。ビジスパではメルマガ「戦略プロフェッショナルの流儀  -変革を楽しむために-」を執筆中。

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