日本に足りない「起・企業家的人財」とは

ビジスパ事務局 2011-05-13 10:00:00

15年程前から、よく「アントレプレナー」という言葉を聞くようになりました。90年代にアメリカ西海岸のシリコンバレー等でITの新興企業が数多く生まれ、急成長を遂げました。それにつれて、日本でも企・起業家という人が話題になり始めました。

ちょうどその少し前から、クライアント、特に米系の企業から、「"企・起業家精神(entrepreneurial spirits)に富んだ人"が欲しい」とのリクエストが増えました。企業家は「経済活動を行う人」、「起業家」は企業を興す人ですが、「企業(enterprise)」には「進取の気性、冒険心」という意味もあります。そこで、その日本語訳に、「企・起」の両方をあてました。

こうした「企・起業家精神に富んだ人」は日本企業ではなかなか見つかりませんでした。その一因として、「特定企業の優秀な部下のインフラの上で長年仕事が出来る」という恵まれた状況にいる人が多いという理由があります。そのエグゼクティブのスキルが残念ながら「特定の組織に属した、汎用性の低いスキル」だったからです。つまり、決まった箱の中で有能なスキルと、全く未知の世界でどう動くかのスキルに差があるからです。

これが90年代に、日本のサラリーマンは「就職」でなく「就社」をしていると言われた所以の一つでした。それは、「企業に対する忠誠心がある」という良い意味があります。一方で、「その組織から出ると市場価値が無くなってしまう」という危険性も意味しました。

もっとも最近では、日本企業の終身雇用信仰の崩壊と相次ぐリストラで、「組織に頼らない」という意識も出てきています。しかし、以前は「組織で仕事をする」人が圧倒的に多かったのも事実です。

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当時クライアントに「企・起業家精神を持った人とはどんな人ですか?」と尋ねると、必ず「創業者の持つ要件ですよ」と言うことで、以下のような要件が上がりました。
1.創造性がある(creative)
2.リスクを取ることを恐れない(risk-taker)
3.一人でなんでもできるよう自立している(self-reliant)
4.自分でしたことに責任を取れる(responsible)
5.諦めない(persistent)
6.自分の手を汚すことを厭わない(hands-on)
7.前向き思考(positive)
8.何でもやればできるという姿勢(can-do attitude)
9.失敗から立ち上がれる勇気がある(courageous)
等々です。

つまり、「斬新なアイデアがあり、一人でハンズ・オンに、何もないところで一から、リスクを恐れずにそのアイデアを実行に移す勇気を持つ。失敗しても人の所為にせずに「なせばなる」の前向きな姿勢で諦めずに責務を完結できる人」ということのようでした。まるで、スーパーパーソンです。

自分の会社を起ち上げる創業者ならこういう要件を持つ人財もあります。しかし、これを大きな組織の中で出来る人ということですからさらに要件は難しくなります。

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実は、組織にはライフサイクルがあり、その段階によって適任のリーダーの要件が変化します。

▼第一期:創業者リーダー
創業期には「創造性と実行力のあるリーダー」が必要です。私は一番分かり易いので、いつもアップル・コンピューターの例を使って説明するのですが、この段階はスティーブン・ジョブズ氏の段階です。企業が成長し一定の規模になると(大体100人位)組織には骨組みになる人事や財務といった専門家が必要になります。そうした「人の集合である組織」を管理できる「管理者的リーダー」が必要になります。

▼第二期:管理者的リーダー
創業者リーダーでこの段階へと進む人もありますが、往々にして創業者社長は管理より新規のビジネスと成長への関心が高く、強力な補佐役がいない場合には、選手交代となることも少なくありません。

管理者は大企業での仕組みづくりや組織管理の経験のある人が適任です。アップルではペプシコという大企業経験者のスカリー氏が招聘されました。管理者的リーダーは、仕組みを入れるとその安定に力を入れる傾向があります。すると、組織は安定すると同時に官僚化する傾向があり、成長が止まることがあります。そこで「変革者(change agent)」が必要になります。

▼第三期:変革者リーダー(change agent)
変革者は第二の創業ですが、既存の組織を管理する必要もあるので、創業者的要件と管理者的要件の両方を満たす人でなければなりません。変革者は多くのケースで、肥大化した組織を分社化したり、売り払ったりしてスリム化をします。そこで、その分社化された組織では、また創業的なリーダーが必要になります。

変革者には「創業者的リーダー」と「管理者的リーダー」両方の要件が必要と書きました。「創業者的な人財」の要件に欠けているのは、自分だけで管理不可能な規模となった時に、その組織をどう使って成果を出すかという要件です。これは、創業者リーダーにありがちなマイナス面を補完する「管理者的な要件」も必要ということです。

創業者は当然のことながら「自分の会社」ですから、資本が他に移った後でも、「自分の持ち物」との意識があり、それが「ワンマン経営」につながるという危険を孕んでいます。

今まで、創業者企業で「初の雇われ社長(hired president)」の方々を見て来ました。どれだけ創業者の方が身を引いて努力をしても、社員がそれを精神的に受け入れられないケースがあり、一定の業績を上げても最終的に社長交代となる例も目にしてきました。

アップルではジョブズ氏がプロの管理者としてスカリー氏を迎えました。しかしその後ジョブズ氏は身を引くこととなり、スカリー氏が一元管理をしましたが、彼は管理者的リーダーであったため、次の成長のために変革者として、外で経験を積んだジョブズ氏が戻っています。

したがって、クライアントの希望は「創業者」そのものではなく、「創業者のような起業家精神を持った人」、つまり「創業者」でありながら、「大きな組織で結果を出せる人」ということだったのです。

橘・フクシマ・咲江
コーン・フェリー・インターナショナル日本法人代表取締役社長、会長を務め、2010年8月アジア・パシフィック地域最高顧問に就任すると同時にG&S Global Advisors Inc.を設立し、代表取締役社長に就任。コーン・フェリー米国本社の取締役を12年間務め、花王、ソニー等の初の女性独立取締役を歴任。現在はブリヂストン、パルコの独立取締役で、「人財革命」をはじめキャリアに関する著書多数。ビジスパではメルマガ「キャリア羅針盤~ ビジネス社会を生き抜くために~」を執筆中。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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