「カップヌードルごはん」から見えてくるもの

ビジスパ事務局 2011-09-22 10:00:00

 さて、この「カップヌードルごはん」、もう食べた方はいらっしゃいますか?多少うがった目で、私も試してみましたが、「いやいや、これは思ったより悪くないぞ」というのが正直な感想です。何となく、「カップヌードルの残ったスープに米を入れたもの」というイメージがあったのですが、実際はもっちりしたピラフという印象の味わいです。日清食品では以前から、電子レンジで加熱するゴハン商品を発売しており、米の食感などでは一定の技術を確立していたので、それも当然かもしれません。

ただし、250円(税別)という価格帯はやや微妙でしょうか。コンビニでおにぎりを2つ買う、あるいは普通のカップヌードルに、梅干などの低価格のおにぎり1つをあわせて買ってもほぼ同じくらいの金額ですから、それらと比較しても食べたいと思ってくれるリピーターがどの程度付くかはまだ未知数です。

すでに近畿地区では、定番の味に加えてシーフードヌードル味も発売されていますし、9月にはカップヌードルごはんの冷凍食品版(そのまま電子レンジにかけるだけという商品)も発売されます。「ごはん」ということを考えれば大本命であろう「カレーヌードル味」がまだ発売されていない点が気になりますが、仕掛け上手の日清食品のことですから、また何か企画を準備しているのかもしれません。さて、味やコストパフォーマンスの良し悪しはさておき、ここではこの商品から読み取れることを、考えていきましょう。

●「ずらし」のマーケティングの時代
「カップヌードルごはん」は確かに、一見奇抜なアイディアです。しかし、カップヌードルという超ロングセラー商品があり、その資産を違う形で有効活用しようと思ったときに、「味はそのままで、形状を変える」というのは、発想法としては実は王道と言えるかもしれません。私たちはもちろん、カップヌードルの麺を楽しんではいるものの、「スープのあの味」こそが商品のアイデンティティとして認識しているような気がします。実際、この商品には「カップヌードル味」と書かれていますが、よく考えてみると、これはなかなかすごい表現ですよね(でも確かに、こう書くしか表現のしようのない味でもあります)。

昔も今も「新商品開発」というのは、極めて重要かつ難易度の高い仕事ですが、そのハードルはますます上がっているのを感じます。私が身を置いている外食産業でも、あらゆる業態が出尽くした感がありますし、大手メーカーから発売される飲料や食品の新商品を見ても、焼き直し感や小粒感は否めません。しかし、そもそもゼロから全く新しいアイディアやコンセプトを生み出すというのは、ともすると無いものねだりになりかねません。モノが飽和しきった今の時代にはむしろ、既存の商品やサービスを「ずらす」ことによってこそ、新しい見せ方を提案できる可能性があるのです。

例えば、日経トレンディが発表した「2010年ヒット商品ベスト30」にランクインしたものの中で、食に関するものをいくつか取り上げてみましょう。

1位:食べるラー油
16位:鮮度の一滴
22位:午後の紅茶 エスプレッソティー
29位:ミルミル

1位に輝いた「食べるラー油」は、まさにこの「ずらし」の典型と言えるでしょう。ラー油というのは家庭の常備調味料として長い歴史があるものの、用途はほぼ餃子のタレに限定されていました。しかし、そこに揚げた玉ネギやニンニクなどを加えることで、「かける」から「食べる」へと使い方をずらしたのです。あるいは、ヤマサが発売した「鮮度の一滴」という醤油は、新しいパッケージを採用することで、商品の競争軸に「鮮度」という観点を持ち込みました。それまでは、醤油における競合商品との差別化ポイントと言えば、原材料(国産や有機など)や、味わい(コク、出汁)、あるいは減塩などが一般的でした。しかし「鮮度の一滴」では、新たなパッケージによって、その競争軸をずらしたと言えます。

また「午後の紅茶 エスプレッソティー」では、コーヒーでは一般的な「エスプレッソ」という高温高圧の抽出法を取り入れています。これにより、紅茶が持っている「優しさ」や「ゆったり」というイメージから、「コク」や「飲みごたえ」など、よりコーヒーに近い価値にずらすことに成功しています。結果的には、缶コーヒーユーザーの一部が、この商品に流れたということが予想されます。さらにヤクルトの「ミルミル」は、子供向け飲料というポジションから、「大人の整腸飲料」へとターゲットとコンセプトをずらすことで販売実績を積み上げました。

ここで挙げたケースはいずれも、「考えもしなかった画期的なアイディア」ではないかもしれません。そもそも、調味料や清涼飲料など食の領域においては、全くの斬新な商品が生まれる方が珍しいとすら言えます。けれども、既存の商品のある要素を「ずらす」ことによって、生活者から「新しい!」とか「面白い!」、そして「いいね!」と感じてもらえるアイディアは、まだまだ開発の余地があるのではないでしょうか。「カップヌードルごはん」は、そんな期待をさせてくれる一品です。

子安 大輔
1976年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、株式会社博報堂に入社。マーケティングセクションにて、食品や飲料、金融などの分野の戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、共同で株式会社カゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。レストランビジネスを教える学校「スクーリング・パッド」主宰。
ビジスパにて、メルマガ「「食」から読み解くマーケティング」を執筆中。

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