「From 東京」から「To 東京」へ ~「カップヌードルごはん」から見えてくるもの(2)

ビジスパ事務局 2011-09-28 10:00:00


<「カップヌードルごはん」、もう食べた方はいらっしゃいますか?>――食に関するコンサルタントの子安大輔氏がこの商品について分析する。本記事は第2回。第1回はこちら


 ●「From 東京」から「To 東京」へ
これまでは、東京でヒットしたものが地方へと波及していくというのが、情報の基本的な流れでした。しかし、近年この流れが逆転している現象が増えてきました。例えば、外食産業では、九州地方の食材や料理を前面に掲げた飲食店がイヤというほど見てとれます。もつ鍋、もつ焼、水炊き、一口餃子、炊き餃子、肉巻おにぎり、唐揚(大分)、宮崎地鶏、鹿児島黒豚、そして焼酎の数々。東京の外食企業は、それ以外の地方も含めて、どこかにネタが転がっていないか?と、それこそ目を皿のようにして探しまわっています。

今回のカップヌードルごはんは、近畿地方でのテストマーケティングからスタートしています。日清食品によれば「創業の地」という点と、「一人当たりのカップヌードル消費量が多い」ということが、近畿を選んだ理由だそうです。ただし、それに加えて1つ言えるのは、「味にうるさい関西で人気ということは、この商品はすごくおいしいんじゃないか」と、その他の地域の人、特に東京人が期待したということです。「関西人はおいしくて安いものしか受け入れない」というのは、自他ともに認める関西人の特徴でしょうから、ただの市場性の検証という目的にとどまらず、「話題性喚起」という点でも近畿地方での発売は極めて効果的だったと思うのです。そしてそう考えると、実は意図的に品切れを起こしたのではないか、と邪推もしてしまいます。

この手法は他にも転用可能です。例えば、バニラアイスクリームの新商品を発売するときに、あえて北海道でテストマーケティングをしてみるのです。そこで見事に品切れが起きるような事態になれば(あるいは、わざと品切れを起こせば)、「あの酪農王国の北海道で評判」という「事実」が、商品のおいしさの保証として機能する可能性があります。

あるいは、外食産業ではこんなことも可能です。ゴールは東京で蕎麦屋を開店して、大繁盛させることだとします。その際に、いきなり都内で出店するのではなく、あえて長野県の安曇野という地で、低投資で実験的に蕎麦店を開業するのです。廃業した蕎麦店を買い取ってもいいかもしれません。この実験店は繁盛すればもちろん最高ですが、仮にそうではなかったとしても、これによって「安曇野」というブランドを手に入れることができるのです。そして満を持して、「安曇野創業の蕎麦屋」を東京で開店するわけです。同じ店名、そして同じクオリティの蕎麦だったとしても、都内でいきなり創業した店よりも、安曇野を背負っている方が想起されるイメージやブランド力で優っているのは言うまでもありません。

同様に、神奈川県鎌倉の辺鄙なところに和菓子の工房を設けて、「鎌倉発の和菓子店」として都内に出店するというアイディアも考えられます。もちろん、こうした日本人のブランド志向につけこむような手口を、「小賢しい(こざかしい)」と言ってしまえばそれまでですし、「姑息」とも表現できるかもしれません。けれども、「情報を消費する」という側面がますます強まる中、どういう情報を提供すれば生活者が「おいしそう」と感じてくれるのか、という点を追求する流れは、これからもなくならないでしょう。そしてこうした仕掛けをするケースは増えていくものと思われます。

東京という街は、トレンドや情報の「発信地」ではありますが、言うまでもなく超巨大な「消費地」です。食に関する魅力的なエッセンスは、もはや東京ではなく地方にこそあると考えれば、今後も「From 地方 To 東京」という流れは続いていくことでしょう。

子安 大輔
1976年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、株式会社博報堂に入社。マーケティングセクションにて、食品や飲料、金融などの分野の戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、共同で株式会社カゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。レストランビジネスを教える学校「スクーリング・パッド」主宰。
ビジスパにて、メルマガ「「食」から読み解くマーケティング」を執筆中。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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