Siebel - Salesforce.com - SugarCRM

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2005-08-22 01:07:15

Salesforce.comの四半期決算が開示された。その好調振りを伝えるニュースは、相変わらずCRM市場のガリバーであるSiebelの市場を侵食し続けていることを伝えている。しかし、ここ最近、CRMといえばSalesforce.comよりもオープンソースのSugarCRMが話題に上ることが多かった。この3社の織り成す競合状況は、これからのソフトウェア・ビジネスを考える上で学ぶことが多い。

3つのビジネスモデル

Siebelといえば、ハイエンドのCRMベンダーであり、個々の顧客がソフトウェア・ライセンスを購入するモデルが基本であった。しかし、2002年を境としてサービス収入がライセンス収入を上回るようになる(このあたりは、クスマノの『ソフトウエア企業の競争戦略』に詳しい)。ソフトウェア企業が成熟する中で、サービス収入が主軸となること自体が問題というわけではないが、そこで台頭するのがASP型のCRMであるSalesforce.comである。

Salesforce.comといえば、SaaS(Software-as-a-Service)を実践するベンダーであり、初期のライセンスフィーではなく、ユーザー単位の利用料を収益源とする。第二四半期の収入は$71.9mとなり、昨年度の$40.6mを77%も上回る。サブスクライバー数は30万に及ぶ。そして最近では、Merrill Lynchなどの大企業をSiebelと争うまでになっているという。つまり、低価格のASPモデルで中小企業セクターから大企業セクターへと攻め上がっているわけである。一方のSiebelは、逆にASP型サービスを立ち上げて、守勢に回っている状況だ。

そして、Salesforce.comよりも更に低価格(年間$149/ユーザー〜)でサポートサービスを受けられるのが、ソフトウェアをオープンソースとして提供するSugarCRMである。こちらは、ソフトウェアがASPとして提供されるわけではなく、ソフトウェアを自社内で導入する点はSiebelと同様である。しかし、そのソフトウェアは無償であり、各社の判断でSugarCRMからサポートサービスを購入するのである。Internetnews.comの記事によれば、SugarCRMのダウンロード数は既に26万に及び、サポートサービスを購入した顧客は250になるという。

ビジネスモデルの変遷とITの競争優位性

ITそのものが競争優位を実現するための手段と位置づけられるならば、そこに大きな初期投資をすることも可能となる。しかし、IT自体が競争優位をもたらさないとなれば、巨額の初期投資を正当化することは困難となる。こうしたITの位置づけの変化をCRMのビジネスモデルの変遷に読み取ることが出来る。

Siebe-Salesforce.com-SugarCRMの流れは、競争優位としてのCRMを獲得することから、共通機能としてのCRMをシェアすることへ、そしてついには共同開発するものとしてのCRMへの変遷である。そこにはCRMを提供するITそのものに競争優位性を求めようという意思は感じられない。この解釈は以前紹介したCarrの『ITにお金を使うのはもうおやめなさい』の世界である。

『マッキンゼー ITの本質』に掲載されている「今度こそ正しいIT投資を」という論文にCRMについて触れている部分がある。そこでは、先発者としてCRMへの大きな投資を行っても、多くのベンダーが同様のソリューションを提供する中にあっては、先発者としての利益は得ることは困難であったという。一方で、IT投資を成功させる要因として「IT導入が経営のイノベーションにつながった時、最も生産性が向上する」と説明している。その限りにおいては、当然ながらCRMへの大規模投資も良いということになる。

では、サービス化、低価格化の進むCRMをどのような基準で選ぶべきであろうか。私は、SiebelからSugarCRMへと続く流れを単なる低価格化として捉えるのは誤りであろうと考える。Salesforce.comのASPモデルは、単なる機能の共有ではなく、Webサービス技術というシステム間連携機能と共に登場している。また、SugarCRMというオープンソースは、単なる無償ソフトではなく、必要機能を他のユーザーと共にコミュニティにおいて共同開発するという可能性を提供している。

こうした特長を生かすことが出来なければ、仮にソフトウェアの価格が下がったとしても、それが競争優位に繋がることはないのではないか。また、ソフトウェアの価格が下がったことが、ITの競争優位を否定するものではない。先のマッキンゼーの論文にある通り、ポイントは経営にイノベーションをもたらすような導入を行えるか否かである。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

6件のコメント
  • e-Tetsu

    すぎじいさん、
    コメント有難うございます。
    やる気のない企業でもシステムを買ってくれるとなれば、効果ないだろうなと思いながら売ってしまうのがITベンダーの悪いところでもあります。効果的な導入を行う、というのも我々の責任ですね。

    manutd04さん、
    最近CRM関連のITリサーチレポートなんかを読むと、とてもITに関するレポートとは思えないほど、CRMの成功にはIT以外の要素が重要だ、なんて書いてあります。今度失敗したときの逃げ口上かとも思ってしまう一方、IT単体では無力であることを改めてIT業界自体が強く認識した結果なのかとも思います。

    2005年09月04日

  • manutd04

    まいどです。
    CRMだろうとモノづくりだろうと同じだと思いますが、そのソフトウェアなり製造方法が”活用できる”下地があるかないか(もしくは創れるか否か)で決まってしまうのかと思ったりします。

    CRMにSalesforce.comを使ってもうまく行く企業もあれば全く役に立たない企業もあるでしょう。モノづくりでも同じでトヨタ生産(カンバン)方式をいくら形式的に真似をしてもトヨタと同じだけの成果が挙げられる企業はありません。

    結局Salesforceを使う組織がCRMツールから得られるデータや傾向を自社のマーケティング活動にどう活かせるのか、その目的が何でどんな目標(数値;リピート率やらARPUやら)を目指してツールを使っているのか、どうやったらリアルのビジネスの実績が改善・向上するのか、など本質を理解していないといけないのかと。。。こうなるとIT導入云々よりも組織の意識の問題になって来て、それこそマッキンゼーの出番かもしれません(IBMコンサルティングは強そうね、この辺)。

    ITが経営にイノベーションをもたらすのではなくて、経営にイノベーションを起こせるような導入を行なえるか(意識のイノベーションかな?)というのはもっともだと思います。問題はそれを誰が組織に導入・浸透させられるか、ですよ。ここがうまく導入支援できるようだと戦略系コンサルも使う価値があるんだけど・・・

    2005年09月01日

  • すぎじい

    いつも勉強にさせていただいています。
    3つのモデルの整理も参考になりました。CRMの言葉、コンセプト、機能としてのコモディティが進む中、Salesforce.comおよびSugarCRMにおいては違った差別化が進んでいますね。

    「経営にイノベーションをもたらすような導入を行えるか否かだ大事」というのにはまったく同感です。裏返すとそれをやる気ないの企業がどんなものを導入しても、まったくお金をドブに捨てるだけということですね。

    2005年08月28日

  • e-Tetsu

    Kennさん、
    そう言ってもらえると嬉しい限りです。自分も何か引っかかるので書いてみているという感じです。米国ビジネス立ち上げ頑張って下さい。

    415さん、
    自分をそれぞれの立場において、どのような戦略をとるべきかシミュレーションしてみると面白いかもしれません。今の瞬間はSalesforce.comが一番ノリノリですが、ちょっと前まではSiebelがそうだったわけで、次の一瞬は判りません。自分がどこにいようと、同じ状況が5年以上続くことは考え難いですからね。

    2005年08月26日

  • 415

    CRMに限らずビジネスモデルとしてこの比較を捉えた時に
    非常に興味深い比較だと思います。

    顧客視点で考えた時に、
    Siebel - Salesforce.com - SugarCRMの順で
    コストがさがり、導入障壁は低くなると思われます。
    Siebelのビジネスモデルも現時点で成立していることを
    考えると導入障壁の低さとトレードオフになるものが
    Siebelにはあるということだと思います。
    品質なのか信頼なのか何なのかはわかりませんが、
    それを分析に考慮に入れておかないと、
    一面的な価格競争の流れに巻き込まれてしまうように
    感じました。

    2005年08月24日

  • kenn

    このエントリを読んで、何か胸につっかえていたものが外れたような気がします。謝々。

    2005年08月24日

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