富山の薬売りに見る先進的ビジネスモデル

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2005-12-29 00:53:23

来年は戌年。犬も歩けば棒に当たるというが、外に足を踏み出すと、たまに妙なものに遭遇することがある。かつて、クロネコ自転車のぎこちない動きに、新規ビジネスの難しさを垣間見たこともあった。今回は、何と家の近所で富山の薬売り発見である。

富山の薬売り目撃!!

富山の薬売りと言えば、江戸時代から続く伝統的な薬の販売形態であるが、そのスタイルは行商であり、浮かぶイメージは背中に薬箱を背負った行商人スタイルである。しかし、そんな姿はついぞ見たことがないから、もう存在しないのかと思っていた。

しかし、クリーニング屋へ行こうと近所を歩いていたら、前方50メートルほどのところにある四辻にスーパーカブが現れた。方角を見失った様子で、一瞬その四辻で立ち止まった。しかし、そのスーパーカブ、後ろの荷台に木箱を山のように積んでいる。5、6個くらいだろうか。よくよく見るとその一つに、「富山堂薬品」と書いてある。と次の瞬間には、走り去ってしまったので、これ以上のことは判らない。

が、もしや、これが現代版の富山の薬売りかと、家に帰ってネットで調べてみると、確かに「富山堂薬品」という富山に本社を置く置き薬の会社が存在していたのである。幻ではなかったのだ。

置き薬のビジネスモデル

何も無理して、富山の薬売りをITに結びつけるつけることも無いだろう、と思われる方も多いだろうが、意外と我々のビジネスとの類似点も多いのである。

置き薬のビジネスは、まず箱に入った薬を家庭に配置するところから開始する。しかし、その時、顧客から代金を取ることはない。箱も薬も無償で提供される。その後、年に2回程度、行商人が家庭を訪問し、利用した分だけ薬の代金を徴収する。その際、行商人は、使われた薬は補充し、古くなった薬は交換する。

薬などは、必要なときに必要なだけあれば良い。また、それがいつ必要になるか判らない代物である。それに対して、使わなければ一切お代は頂きません、でも必要なときはいつでもお使い下さい、というのは実に顧客にとっても都合の良いビジネスモデルである。

我々のビジネスとのアナロジー

まず最初に思いつくのが、「オンデマンド」である。必要なときに必要なだけ使えばよく、しかも使った分にしかチャージされない。これはまさにITビジネスで言えば、従量課金ということになる。

そして、次に思いつくのが、「オープンソース」とのアナロジーである。富山の薬売りのビジネスモデルで画期的なのは、最初に箱と薬を無償で配ってしまうところである。あって困るものではないし、使わなければタダなんだから、拒む理由も特に無い。オープンソースも無償だから、ダウンロードするのに抵抗感はない。使ってみて使い易ければ、開発元あるいはサポートサービスを提供しているベンダーからサポートを購入すれば良いのである。

しかし、唯一異なるのは、富山の薬売りがオフラインで実現していることを、ITビジネスはオンラインで実現していることである。

ビジネスモデルの新規性

では、IT業界から見ると先進的とも言えるビジネスモデルを確立した置き薬ビジネスは儲かっているのだろうか? 想像に難くは無いが、これだけ小売チェーンが発達した現代において、決して楽なビジネスではないというのが現実のようである。一方、オンデマンド型とオープンソースの波に現れるソフトウェア業界においては、旧来型のライセンスビジネスが圧迫されつつある。

IT分野ではテクノロジーの進展に伴って、新しいビジネスモデルが次々と模索される。しかし、そこで活用される原理原則は、富山の置き薬の例からも見られる通り、既に存在しているものの応用であることが多い。ポイントは、ビジネスモデルの新規性よりも、環境に応じたビジネスモデルを構築できるかにありそうだ。

ITの絡むビジネス領域においては、テクノロジーの変化するスピードが速いが故に、既存のビジネスモデルの陳腐化のスピードも速い。また、ビジネス領域の境界が明確に定まらないが故に、誰にも正解が判らない。我々はそんな模索をまさに続けているというのが実体だろう。

富山の薬売りのこれから

富山の薬売りは、単に薬を売るだけではなく、訪問先の家庭の事情に応じて置き薬の中身を変えたり、健康上のアドバイスをしてきたという。また、その顧客リストは、当然ながらビジネスを続ける上での最大の財産であったという。まさに、CRMを江戸時代から続けて来たわけである。

訪問が年に2回ということは、保険販売や富裕層向けサービスの顧客コンタクト回数に近い数字である。何かそのあたりに復活の鍵はないだろうか?

* * * * * * *

本年最後のエントリー、ちょっと強引でしたが、戌に引っ掛けてみました。

皆様、良いお年をお迎え下さい。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

1件のコメント
  • 姉歯

    富山の薬売りが置いていく薬の基本セットには、
    花粉症の薬だったり酔い止めだったり育毛剤だったり
    そういった個別色のつよい薬は含まれていないというのは
    一つの教訓かもしれません。
    もちろん希望すれば入れてもらえるのだと思いますが、
    あくまで基本セットにはふくまれておらず、
    そこから先はカスタマイズの世界ということなのだと思います。

    ITにおいてもオープンソースやASP形態のビジネスを考える際に
    どこまでをベースとしてどこからをカスタマイズとするかは
    極めて重要なファクターですね。

    とりあえず建築における構造設計は基本セットの方だと思います。

    2005年12月29日

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