マイクロソフトはそんなに悪いのか

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-05-08 23:29:57

ドキュメント・フォーマットを巡る争いが過熱している。表向きの議論は、政府が長期間に渡って保管するドキュメントのフォーマットは特定ベンダーに依存すべきではない、というものだ。これは、マイクロソフトに依存しないドキュメント・フォーマットが策定されるべきだという議論に他ならない。

マイクロソフトは、自らのドキュメント・フォーマットであるOffice Open XMLがISOで批准されるよう努力を続けてきたが、対するOpenDocument Format(ODF)が5月2日にISOに批准されるに至る。ODFをサポートするのは、IBMやサンなどオフィス・スイートを提供するマイクロソフト以外の企業群である。

表向きのあるべき論は別として、何でここまで反マイクロソフトが盛り上がってしまったのだろう。また、マイクロソフトはどうすべきなのだろうか?

デファクトとデジュール

かつてオフィス・スイートと呼ばれるワープロ、表計算などの一連のソフトが乱立し激しく争っていた頃、取引先と使っているソフトが異なっているがために読み込めないというのは一般的な話であった。しかし、市場競争に勝ち抜いてスタンダードとなったのはマイクロソフトであり、そのお陰で我々のドキュメント作成や情報共有は大幅に効率化された。まさにデファクト・スタンダードなのである。

一方、ISOの批准を通じてスタンダード化を狙うODFは、市場競争というよりも制度的な力を利用して市場への浸透を図ろうとするものである。制度的なスタンダードをデジュール・スタンダードとも呼ぶが、これだけMS Officeが広く利用されていると、急速な浸透は難しいだろう。一方、MS OfficeからODFを読み込むPlug-inがオープンソース・コミュニティから提供される見込みもあるらしい。そうなるとODFの浸透も早まるかもしれない。

しかし、本来市場においては、デジュールではなくデファクトがスタンダード競争の基本原理であるべきだ。そこへきて、反マイクロソフト陣営が集結してデジュール戦術を取ったのは何故だろうか。

独占は悪か

イノベーションに関する理論で有名なヨーゼフ・シュンペーターは、中長期での市場の発展のために短期的な市場の非効率は止むを得ないとした。つまり、ある程度の市場独占は許されるべきで、それが企業によるR&D投資の余力となって新たなイノベーションに繋がるという。当然市場独占は、モノの価格を押し上げて市場を非効率なものとする。それ故、基本的には避けられるべきなのだが、シュンペーターはそれもありだと言うのである。

まさにマイクロソフトがシュンペーターの理論を体現していると言える。マイクロソフトがオフィス・スイートの市場を独占したことにより、我々は価格競争の恩恵を享受できないが、それによってマイクロソフトは大規模なR&D投資を行うことが出来るようになった。それによって、我々のオフィス環境はますます便利になり、経済発展にも繋がるわけだ。

こうした意味において、独占が全くの悪だとは言えないだろう。しかし、反マイクロソフト陣営が結集したのは、それを悪と見たからに他ならない。

イノベーションの臨界点

独占がイノベーションの源となりえるかという議論にも一定の臨界点があるようだ。つまり、独占には市場を非効率にするネガティブな側面と、投資余力を増大させるポジティブな側面があり、その両者がせせめぎ合う境界線が存在する。ポジティブな側面が大きいときは好意的に受け止められ、ネガティブな側面が大きくなると市場から反感を買うこととなる。

ドキュメント・フォーマットに関して反マイクロソフトの機運が高まったことの背景として、市場の非効率性の側面が大きく見えるというのはあると思う。マイクロソフトによるゲーム機などエンターテイメント分野への参入にしても、広告ビジネスへの参入にしても、いずれも競合他社の後塵を拝しているところを巨額のR&D投資で補おうとしている印象が拭えない。つまり、新しいイノベーションというよりも、巻き返しのための投資であり、今ひとつオフィス・スイートの値段が下がらないことに納得感が得られないのだ。

マイクロソフトの対抗策

最善の対抗策は、それなら仕方ないと思わせるようなイノベーションを生み出し続けることだろう。そうすれば、仮に競合他社によるドキュメント・フォーマットがISOで批准されたところで、マイクロソフトの勢いが削がれることはない。逆にそれが困難な状況においては、むしろODFを取り込んでいくことが顧客からの信頼を維持していくためには必要なのではないだろうか。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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