1匹3千円の豆アジと1台4万9,980円のPS3

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-09-23 11:06:08

さて、先週はブログのエントリをサボってしまった。なぜなら釣りに行っていたからである。でも連休なんだから帰って来てから書けばいいじゃないかという話もあるが、釣れなかったんだから仕方ない。

とはいえ、全く釣れなかったわけでもない。こちらのページにある写真の巨アジ(実は10数センチの豆アジ)4匹。その日に掛けたコストを考えると、何と一匹2,000円相当の豆アジである。もし僕が釣った魚で生計を立てるなら、これを3,000〜4,000円で売らないと生きていけない。近所で売っている値段のざっと30倍〜40倍だ。関アジだってそんなに高くは無い。ちなみに、こんな風に掛かったコストをベースとして値段を付けることをコスト・ベース・プライシングと言ったりする。

PS3の値下げ

さて、PS3の値段が発売前に下がったということが話題となっている。価格が下がるのはPS3の下位機種で、当初の予定価格であった6万2790円から4万9,980円へと1万円以上の減額幅となる。9月23日付けの日本経済新聞(3面)によると、「PS3は今後五年程度の間に全世界で一億台の普及が事業の前提」であり、「初年度六百万台の販売目標を達成するには当初価格では厳しいと判断した」というのが価格変更の理由のようだ。一方、同記事によれば、ソニーはMPUの開発に2,000億円の投資を行っており、その回収を優先したいという思惑もあったようだ。

プライシングのロジック

価格の設定方法には大きく3つあると言われている。1つ目は、豆アジの例で挙げたコスト・ベース・プライシングで、これは掛かったコストを元に値段を付ける。2つ目は、コンペティション・ベース・プライシングで、競合の価格設定に応じて価格も決めていくもの。3つ目は、バリュー・ベース・プライシングで、顧客の得るであろうバリューに応じて価格を設定するもの。

理想を言えば、バリュー・ベース・プライシングで価格を決定し、その価格を実現できるようなコスト構造でモノ作りを実現したい。でも、現実には事はそれほど単純ではなく、同じバリューを持つものを、スケールにおいて勝る競合他社が低価格で発売したり、当初予定していた以上に開発コストが掛かってしまったりと、理想的なビジネスプランは大抵崩れる。そして、ふと気がついてみると、タクティカルにコスト・ベースに価格を決めることが当然と見なされたり、競合他社の動向に左右されて価格などあって無きがごとき状況となる。

ビジネスモデル

そんな時にやはり立ち返るべきは、もともとどんなビジネスモデルを目指していたのか、ということだろう。投資コストをハードで回収するのか、それともハードでシェアを握ってソフトで回収するのか、などなど。そこに揺るぎがなければ、状況変化への対応も一貫性を持つ。それだけに、ビジネスモデルの構築に当たって、市場の構造や成長性などの読みが重要になってくる。

万一ビジネスモデルの欠陥が発見されたならば、当初の計画を見直すことが必要となる。実は、これが一番難しい判断であるが、これを先延ばしにすれば、価格設定はコストとコンペティターに翻弄されることとなるだろう。ソニーの価格変更には、多分に競合他社の価格設定が影響しているが、これが当初のビジネスモデルを堅持するためのものならば、英断と言えるだろう。しかし、ビジネスモデル維持が困難な状況だとすれば、危険な兆候となる。

プライシングの命運

イノベーションの命運を握るのはビジネスモデルと言われるが、プライシングの命運を握るのもビジネスモデルと言えるだろう。ソフトウェアが無償になるのも、これはソフトウェアの顧客バリューがゼロとなったからではなく、ビジネスモデルのなせる業なのである。

ちなみに飯田鮮魚店のビジネスモデルは、魚がめったに仕入れられないので、そもそもあり得りえない。どう考えても、1匹3千円の豆アジの方が、1台4万9,980円のPS3より高い。やっぱり船に乗るしかないのかな。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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