「背水の陣」から生まれるイノベーション

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2007-02-17 09:40:24

紀元前200年頃の話。漢の将軍であった韓信が2万の兵を率い、30万を擁する趙を半日で撃破した。その時に取られた奇策が「背水の陣」である。兵法の常識に反して、川を背後に布陣する。これによって退路を断ち、兵に決死の覚悟で戦いに臨ませる。そしてそこに勝機を見出すのである。

一方、IT業界というのは、コモディティ化との追いかけっこのようなところがある。そしてコモディティ化が進み始めた領域においては、スケールを実現するための吸収合併が活発になり、かつての鋭い企業群は消滅してゆく。このように一般化すると、物事が綺麗に整理されるのだが、中に兵法の常識を無視して「背水の陣」を布く企業がある。

PC業界の背水の陣

PC業界はコモディティ化の典型だ。かつてIBMが標準化を推し進めたことでPCのコモディティ化が始まり、DELLがそれを完成させたと言ってもいい。結果として、IBMはPCの領域からは撤退し、コモディティ化を推し進めたDELL自らがその中で苦しむという状況に陥っている。こうした中で唯一特異なポジションを維持しているのはAppleである。

Appleという企業、Wintel陣営に完膚なきまでに押し潰され、その市場は一部の個人と教育領域に限定された。しかし、下手に互換機市場には参入せず、ニッチマーケットに留まることを選択した。即ち背水の陣を布いたわけだ。そこにスティーブ・ジョブズというカリスマティックなリーダーを得て、iPODが生み出される。もしもシェアの低下の中で安易な多角化や妥協を行っていたら、Appleのブランドは崩れ、今の成功はなかっただろう。

サーバー業界の背水の陣

サーバー業界もコモディティ化の激しい領域だ。PCサーバーがシェアを拡大し、UNIXサーバーの領域は市場自体の成長が困難だ。そんななか、かつての雄であるSunはじりじりとシェアを落としていく。しかし、競合他社がサービスやソフトウェア領域の拡大を喧伝するなか、Sunはストイックにプラットフォームの提供に拘った。つまり、Sunも「背水の陣」を布いたわけだ。そしてそこから生み出された奇策とは、意外にもSolarisのオープンソース化という驚くべきものであった。果たして効果があるのかという疑念もあったが、業績は回復しつつある。

背水の陣が全てではない

さて、韓信であるが、「背水の陣」が全てを決したわけではない。背水の陣を布くと共に奇策を用いている。敵の全軍が襲い掛かってくるのを見越して、山上に隠しておいた奇襲部隊に空になった敵本陣を襲わせ、そこに自軍の旗をなびかせたのである。これによって、30万の敵兵は激しく動揺し、軍としての体をなさなくなったという。

AppleもSunも背水の陣だけで現在の状況があるわけではない。音楽配信であったり、オープンソースであったりという奇策が組み合わされて、初めて大きな成功に繋がっている。ただし、背水の陣を布くという覚悟がイノベーティブなアイデアに繋がっているのではないかという推測は成り立つだろう。そう考えると、一見機械的に分析できるIT業界も、まだまだ変化に富んだものにできそうな予感がするのである。

背水の陣を引くシーネットネットワークスジャパン

ところで、なんで今回「背水の陣」などというテーマにしたかというと、昨日のCNET主催の飲み会の場において、「この人たち、まさか背水の陣を布いてるのでは。。。」と感じてしまったからなのである。私は常々、あまりにITビジネスから脱線するこのブログがZDNet編集部の不評を買い、遠からず閉鎖に追い込まれるのではないかと思っていたのだが、いざ編集部の皆さんと会ってみると「もっとやれ、もっとやれ」なのである。極めて少人数の体制で、CNETは背水の陣を布きつつ奇策を繰り出して大手メディアと戦っているわけである。要はこのブログも奇策ということだ。

ならば思う存分ということで、ついでに釣りの報告も。実はこちらも昨年11月の大敗の後、久々に背水の陣で臨んだところ、復活の兆しを見せつつあるところ。ちなみに、釣りには奇策が無いので、単なる気合です。詳しくはこちら

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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